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蝶野正洋「猪木さんは10年先を見ていた」「闘魂三銃士は猪木さんより“薄い”かもしれない。でも」ミスターG1が語る“プロレス人気の正体” 

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城島充

城島充Mitsuru Jojima

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photograph byToshiya Kondo

posted2022/08/18 11:00

蝶野正洋「猪木さんは10年先を見ていた」「闘魂三銃士は猪木さんより“薄い”かもしれない。でも」ミスターG1が語る“プロレス人気の正体”<Number Web> photograph by Toshiya Kondo

黒のカリスマとしてプロレス界で存在感を発揮し続ける蝶野正洋

だって、プロレスと総合格闘技は別モノだから

――2000年代に入ると、総合格闘技と真っ正面からぶつかり、結果的にプロレスがのみ込まれてしまった感は否めません。蝶野さんは当時からプロレスラーが総合格闘技のリングにあがることに否定的でした。

「だって、プロレスと総合は別モノだから。向こうはやっぱり競技で、空手とか柔道の延長線上にある。もともと別の方向を向いていたのに、興行という形でぶつかってしまった。興行は人を集めてお金をとって見せるんだけど、いかにお客さんを満足させ、次もまた見にきてもらえるかが重要なんだ。誰が一番強いのかってところから始まったはずの総合も、結局は継続させなきゃいけなくって、競技から興行の世界に乗り込んできた。興行になったからには、いずれプロレスにからんでくる。猪木さんはそう予測したから、彼らを警戒し、藤田和之選手や永田裕志選手たちを総合のリングにあげたんだと思う」

――2002年2月の札幌大会で、蝶野さんが『俺はこのリングでプロレスをやりたいんです』と、猪木さんに訴えたシーンは印象的でした。

「当時はどんな競技が興行の形で出てきても『いや、俺がやってるプロレスのほうがおもしれえんだ』という自負があった。俺が抱いているプロレスラー像って、カバン一つ持って世界中を旅しながら、リングの上で自分をしっかリプロデュースして飯を食っていくイメージなんだよね。腕一本で渡り歩いていく、大人のヒーロー。でも、例えば柔道の人たちはトップに立ったあと、道場を開いて門下生を育てていくイメージが強いよね。どちらが凄いとかかっこいいとかじゃなく、やっばり、全く違うんだよ。違うものと混ざり合って得た痛みや教訓を、プロレス界は絶対に忘れちゃいけない」

新しいファンをつかまなきゃいけないのは、宿命だよね

――現在の新日本の興行には若い女性ファン、いわゆる『プロレス女子』の姿が目立ちます。『マニアは業界をつぶす』と公言するブシロードの木谷社長が、新たなファン層の拡大に動いた結果でしょうが、さらにこの先のファン獲得策はあるでしょうか。

「常に新しいファンをつかまなきゃいけないのは、宿命だよね。プロレスを好きになってくれた人が、実際に興行に足を運び続けてくれるのは3年、長くて5年ぐらいじゃないかな。就職や結婚なんかで、ファンの人たちの生活環境も変わっていくし、熱心に応援していたレスラーもメインから外れたりしていくからね。でも、これからは離れたファンを戻す試みも必要になってくると思う。

 例えば、俺の店にやってくるお客さんは、ずっと俺を応援してくれてるんだけど、プロレスとの接点はもう15年前なんだよ。今のプロレスは見ていない。出演しているNHKの教育番組で知り合う30代のお父さんやお母さんたちのなかにも『学生のころ、見てました』って言う人がいっぱいいるわけ。そんな人たちはプロレスから遠ざかっても、過去にできたプロレスとの接点は消さずに持ち続けている。そういう人たちに1年に1回、いや2年に1回でも興行に来てもらえるようになれば、ものすごく大きなパイになる。

 例えば、ドームでの興行を考えたとき、藤波さんや長州さんをリングにあげれば、2人のファンだった人が集客の1割から2割を埋めてくれるかもしれない。ジャニーズのコンサートのように、いろんな世代のファンが一緒に楽しめるリングになればいいよね」

【次ページ】 俺も「もう、おやじなんていらない」って言ってたから

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