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「可能性は1%もない」FC東京の休部から半年…フィンランドにいたバレーボール選手はどうやって“譲渡先”を探したのか? 

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米虫紀子

米虫紀子Noriko Yonemushi

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photograph byShohei Nose

posted2022/07/05 17:00

「可能性は1%もない」FC東京の休部から半年…フィンランドにいたバレーボール選手はどうやって“譲渡先”を探したのか?<Number Web> photograph by Shohei Nose

昨季はフィンランドリーグでプレーしたリベロ野瀬将平(28歳)。今季は東京グレートべアーズの一員としてVリーグに戻ってくる

 議論の果てに、今年2月末、ネイチャーラボはチームの受け入れを決断した。

 バレーボールは約5億人という世界最大の競技人口を有すること、日本にはママさんバレーという文化があること。日本代表が、サッカーなど他の球技よりも世界ランキングが高いこと(男子は7位・7月4日時点)。昔からお茶の間で観戦したり、授業でやる機会もある親しみのあるスポーツであること。また、ネイチャーラボはスキンケアやヘアケア用品など女性向け商品を多く展開しており、男子バレーのファン層とマーケットが重なる点などがプラス材料と判断された。

 野瀬は「ネイチャーラボが持っているリソースやクリエイティブ力はすごいので、それをバレー界に還元してもらうことでかなりメリットがあると思っています」と期待する。

 練習はこれまで通り深川体育館を使用できることになった。試合会場の問題はすぐに解決するものではないが、区立の体育館などを確保しやすくするためにも「行政としっかりコミュニケーションをとって、子供達の支援や地域貢献活動などを増やし、結びつきを強めていきたい」と野瀬は言う。

 こうして、チーム譲渡は実現した。

 FC東京の主将として苦悩しながら、「#NeverGiveUp東京」のハッシュタグで思いを発信してきた、野瀬の同期でもある栗山英之は、「野瀬が動いてくれたおかげで、チームが存続できる。またチーム全体でバレーボールができる」と安堵の表情で感謝した。

​新たなスタートを切った「東京グレートベアーズ」(チーム公式Twitterより)​新たなスタートを切った「東京グレートベアーズ」(チーム公式Twitterより)

選手兼コミュニケーションマネージャー

 海外でプレーした後、プロ選手としてFC東京に加入し、東京グレートべアーズでは初代主将を務めるリベロの古賀太一郎もこう話す。

「今回自分のチームが休部になって、自分の無能さ、無力さを感じた。選手だからバレーボールをしとけばどうにかなる、チームを強くしたらどうにかなると思っていたけど、このご時世、選手がバレーだけをしているだけでは……。野瀬がバレーをやりながら、(ビジネスの)セミナーに顔を出して勉強したり、いろいろやっているのは知っていました。そういう選手が多くなることはバレー界にとって間違いなくプラスだし、今回の件も、最初に道を作ってくれたのは野瀬だった。そういう人としての厚みというか、知見や経験を増やしていくことは、これまでのバレー選手にプラスアルファ、必要になるのかなと、身にしみて感じました」

 野瀬は選手として新チームに加わると同時に、コミュニケーションマネージャーという肩書きも担う。

「プロバレーボールチームとして、本気でバレー界に対してビジネスで戦おうとしているので、やりたいことや理念を世間に向けてわかりやすく発信していきたい。バレー界はまだまだ小さな業界で、他からのサポートが必要なので」と意気込む。

 1つのチームが消滅する危機は脱したが、野瀬は「ちゃんちゃん、で終わらせたくないんです」と強調する。

【次ページ】 「未来は自分たちにしか変えられない」

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