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最強の“場違い男”が誕生! 那須川会長の愛弟子・風音が「なんでお前が出るねん?」から下克上優勝するまで 

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布施鋼治

布施鋼治Koji Fuse

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photograph bySusumu Nagao

posted2021/09/29 17:05

最強の“場違い男”が誕生! 那須川会長の愛弟子・風音が「なんでお前が出るねん?」から下克上優勝するまで<Number Web> photograph by Susumu Nagao

『RISE DEAD OR ALIVE 2021 -53 kgトーナメント』で優勝したのは、土壇場で出場切符を得た“唯一無冠の男”風音だった

 風音には失礼ながら筆者もそう予想した。案の定、2R序盤までは志朗のカウンターテクニックが冴えているように見えた。ところがそれ以降は風音が右ストレートやワンツーで盛り返す。3Rになると、風音にはまだ体力が残っているように見えたが、対照的に志朗は疲れているのか、珍しく大振りが目立つようになる。実は試合中志朗は右手を骨折してしまっていたが、この時点では知る由もなかった。

 延長戦になると、さらに風音が優勢になった。観客席からは「すごい、スタミナ」という声が漏れる。結局、文句なしの3-0で志朗を破るという番狂わせを演じた。涙の先には栄光があった。優勝できた要因を聞くと、風音は「決勝も準決勝も一回戦も、全て呑み込めたと思う」と振り返る。

「技術レベルでいうと、自分より闘った相手の方が上。自分でいうのもなんですけど、気持ちで全てを呑み込めたんだと思う」

 筆者は10年に一度くらいのサイクルで、技術ではなく気で押した方が勝つという試合に出くわす。少々古い話になってしまうが、2001年8月のK-1 JAPAN GP決勝でニコラス・ペタスが延長戦でダウンを奪った末に武蔵を破った一戦は鮮烈な印象として記憶に残っている。

「なんも言葉が出てこ~へん」のリフレインから始まった優勝後の風音のマイクは観客や視聴者の涙を誘った。

「うれしすぎると、あんまり言葉が出てこなくなるものですね。ホンマに号泣して気絶するくらいのうれしさを感じているんですけどね」

那須川天心に対決を挑むも「100年早いよ」

 その後、那須川天心との禁断の同門対決を直訴したが、これは控室で当の那須川から「100年早いよ」と一蹴されたという。

「ホンマにジムでスパーリングとかやっていると、ジャブだけでビビビって(感じで)やられている。でも、実戦はやってみないとわからない。今回のトーナメントを観てもらえばわかるように、僕は化けちゃうので」

 大半の選手は実戦では練習で培ったものの数割しか出せないという話をよく聞く。練習ではめっぽう強くても、本番になると結果を残せないという選手もいる。気で押す試合を3試合連続でできたことといい、風音は他の選手がやりたくてもできないパフォーマンス能力があるという意味で希有な存在なのか。

 ここに、最強の場違い男が誕生した。

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