Number ExBACK NUMBER

「批判される方々に心から…」日本のチームメートに嫉妬はなく温かい だが“難民認定ミャンマー代表GK”の言葉が哀切極まる理由 

text by

木村元彦

木村元彦Yukihiko Kimura

PROFILE

photograph byKentaro Takahashi

posted2021/09/18 17:02

「批判される方々に心から…」日本のチームメートに嫉妬はなく温かい だが“難民認定ミャンマー代表GK”の言葉が哀切極まる理由<Number Web> photograph by Kentaro Takahashi

Y.S.C.C.横浜のフットサルチームに加入したピエリアンアウン。果たしてどんな道のりをこれから歩んでいくのか

「あなたはいろんなインタビューで、申し訳なかったという発言をしているが、今回、日本でプレーすることを歓迎している人もたくさんいるではないですか。なぜあやまるのですか」

 ピエリアンアウンの答えは哀切極まるものであった。

「私は日本で難民申請をしてこれを認定していただきました。母国ミャンマーでは、無辜な市民が発砲を受け、逮捕され続けるという酷い状況になってしまいました。私はその軍事独裁に対する抗議の意思を表明したのです。それで帰国できなくなって一時的に日本に残留し避難させていただきたいと言うお願いをしたわけです。これについて、私やクラブを批判される日本の方々に対し、心からお詫び申し上げたいと思ったから、申し訳なかったという発言を続けたのです」

 ピエリアンアウンは分かっていたのだ。

 自分を受け入れることでクラブが一部の人々から心無いバッシングを受けていることを。難民条約に批准しながら、難民に対するヘイトが公然と行われるこの国の恥ずべき状態はいつまで続くのか。被害者である難民が保護を受けるのは当然の権利である。ピエリアンアウンが謝る必要など微塵も無いのだ。

 追記すれば日本政府はミャンマー軍閥企業への最大投資国のひとつであり、民衆を平気で撃ち殺す国軍を肥え太らせて来た責任は大きい。また、4月に駐ミャンマーの大使が公表した、軍に対しての非難共同声明に加わらなかったという日本外交の事実もある。

この日に起きた画期的な2つの出来事とは

 会見はつづがなく30分で終わった。話題にはならなかったが、この日の会見では画期的なことが2つ起こっていた。

 ひとつは4日前、9月10日に創立100周年を迎えた日本サッカー協会(JFA)が1世紀にわたる歴史において、初めて難民選手を選手登録したということ。

 ドイツ(DFB)、フランス(FFF)、スペイン(RFEF)……これら欧州の列強が歴史的に、どれだけ多くの難民選手を受け入れてきたことか。ようやくスタンダードに追いつく第一歩を踏みしめたのだ。

 もうひとつはこの日のミャンマー語の通訳を群馬県の館林から来たロヒンギャ民族(アラカン州の少数民族=ムスリム)の若者が務めたということ。

 この意義を、ピエリアンアウンの支援者であるアウンミャッウインは自身のSNSでこう書いている。

「今日のピエリアンの入団会見の通訳はロヒンギャ民族の若者、そして同行していたのが、毎朝朝4時に起きてピエリアンと一緒に練習場に行っているラカイン民族の若者。このロヒンギャとラカインの両民族を国軍は長年に渡って対立させて自分たちがアラカン州を支配してきた」

 これは知る人ぞ知る事実で、インド洋に面した西部アラカン州のパイプラインの利権を欲した国軍は、同地域に暮らす2つの民族の対立を煽って来た。分断させることで中央による統治支配を容易にして来たのだ。

「しかし、現在は国軍のやり方が分かってこの会見のように両民族は仲良くしている。民族や宗教の壁を乗り越えて内戦や差別の無い共生社会を作るために私たちミャンマー国民は立ち上がらないといけない」ロヒンギャは市民権すら剥奪されているが、アウンミャッウインはあえて国民という言い方をした。

 ピエリアンアウンはその存在で、日本国内に暮らすミャンマーの多民族の融和を自然に実現させているとも言える。10月8日、Fリーグが再開する。

関連記事

BACK 1 2 3 4 5
ピエリアンアウン
Y.S.C.C.横浜
松井大輔

Jリーグの前後の記事

ページトップ