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「もう自分の足ではなくなってしまうんだ」号泣した“大怪我”を越えて、Marvelousの“赤い天才”彩羽匠が帰ってくる 

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伊藤雅奈子

伊藤雅奈子Kanako Ito

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photograph byMarvel Compony

posted2021/07/15 11:02

「もう自分の足ではなくなってしまうんだ」号泣した“大怪我”を越えて、Marvelousの“赤い天才”彩羽匠が帰ってくる<Number Web> photograph by Marvel Compony

同じ右膝前十字靭帯断裂、半月板損傷から復帰した「RIZIN」の堀口恭司に勇気をもらった、という彩羽。愛称は“イケメン女子”

 リングを留守にしているあいだ、増えた後輩たちは目を見張るスピードで力をつけていった。マスコミの評価も上々。それは、時間をかけて培った“指導者”彩羽の的確で冷静な判断力の賜物といえた。この5年間で会得したのは、「常に凛としてなきゃいけない自分」。あの日の涙は、封印していた感情の糸がプツリと切れた瞬間にあふれ出たものだ。止める術が見当たらなかったのは、「選手代表」の彩羽が背負った宿命といえた。

左上腕三頭筋に彫られた“3つのタトゥー”

 およそ4時間半に及んだ手術は、右の膝蓋骨と脛付近を骨ごと切り取って前十字に移植する大掛かりなものだった。一般人なら完治まで2年はかかる。ところが、「靭帯の成熟度が早すぎる」と目を丸くした主治医がGOサインを出したため、7・19後楽園大会での復帰が決まった。術後8カ月の早期復帰は、「吐くほどの衝撃と、練習と同じくらいにきついリハビリ」に耐えた顕れだ。現在は、リングを使った個人・団体練習にプラスして、リハビリトレーニングも並行している。

「実はネガティブ思考なところがあって、人と比べて自分の首を絞めたことが、これまでに何度もありました。そういうときの口癖は、『でも』『だって』『自分なんて』……なんですよね。でも、道場に帰って1人の時間になったとき、『自分にしかできないことがある。お客さんも待ってくれている』って言い聞かせて、練習をやりこんで、汗を流して、息が上がったら、自分を奮い立たせることができました。リングの上にいるときは、自分と向き合える唯一の時間。リングに救われました。もう、不安は……ないですっ!」

 彩羽の左上腕三頭筋には、タトゥーが入っている。長与に同行した際、ほぼ衝動的に希望して彫られたものだ。その言葉を見たとき、「プロレスラーとして恥じないように生きていく」覚悟が決まったという。

 the inherit fighter(受け継ぐ戦士)

 the next legend(次なる伝説)

 the mentor(師)

 Marvelous旗揚げ前に彫った3つのパワーワードは、2021年の彩羽匠を体現している。

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