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ラグビー新チーム『静岡ブルーレヴズ』に感じる情熱…引退・五郎丸歩が信じる“ワクワクする感覚”とは?【エコパの熱狂】 

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大友信彦

大友信彦Nobuhiko Otomo

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photograph byNobuhiko Otomo

posted2021/06/25 17:02

ラグビー新チーム『静岡ブルーレヴズ』に感じる情熱…引退・五郎丸歩が信じる“ワクワクする感覚”とは?【エコパの熱狂】<Number Web> photograph by Nobuhiko Otomo

新たに「静岡ブルーレヴズ」としてスタートを切ることを発表したヤマハ発動機ジュビロ。五郎丸歩は裏方として第二の人生をスタートさせる

 もうひとつ「海外での経験も大きかったと思います」と五郎丸は言った。

 2015年ワールドカップで日本代表躍進の原動力となり、大会のベストフィフティーンも受賞し、現役を続けるモチベーションを失いかけた時期、五郎丸はオーストラリアのレッズからオファーを受け、スーパーラグビーに戦場を移した。南半球のシーズンが終わるとフランスのトゥーロンと契約。世界のスーパースターが集まるTOP14にチャレンジした。

 そこで五郎丸は、世界のトップ選手はどんな姿勢でラグビーに取り組み、地域に向き合い、ファンに向き合っているのかを学んだ。ファンとの関係、地域との関係、コーチとの関係、家族との関係……そこにはラグビーの技術や戦術、コーチングの理論よりももっと根本的な、ラグビー文化の奥深さがあった。

「海外に行って、日本との差を感じていました。ヤマハは今回、いち早く新たな会社を作って、ラグビー界に新しい風を吹かせようとしている。だったらそこに自分の人生も乗せて、新しい風をもっと強く吹かせてみたいなと思いました」

 そして五郎丸は言った。

「現場でコーチをするのと、新たにプロフェッショナルのクラブを作ることにチャレンジするのと、自分はどちらがワクワクするんだろうかと天秤にかけたら、マネジメントの方にワクワクしたんです。自分のその感覚を信じようと思いました」

 山谷社長からは、チケットの企画、販売など、クラブ経営のベースの部分からスタートしよう、飾りだけのアンバサダーではなく、クラブ経営を学んでほしい、実力をつけてほしい、と言われた。そして五郎丸は言った。

「最終的には、社長を任せてもらえるだけの実力をつけたい。32年間、たくさんの方に支えて頂いたことへの感謝を、マネジメントの立場で恩返ししていきたいと思っています」

ブルーレヴズから伝わるポジティブな熱

「2022年1月に発足する予定のラグビー新リーグ」

 この定型文には、2年前に日本ラグビー協会の副会長に就任した清宮克幸氏が発言したところから、何も書き加えられていない。ワールドカップの追い風を活用して、これまで企業スポーツの枠に縛られていたラグビーのトップカテゴリーをプロ化し、自立への道筋をつけようという野望は、皮肉なことにワールドカップの成功により退けられた。

 今までのやり方でうまくいったじゃないか――そんな保守的な声が、新リーグ構想を前に進めようという歯車に絡みつき、歩みを遅らせる。設立まで半年と迫った6月23日の時点でも、リーグの名称も開幕日も発表されていない。ただ時間が過ぎ、去る者も現れる。

 もう待てない。熱が冷めないうちに、記憶が鮮やかなうちに、早く走り出したい。

 静岡ブルーレヴズの設立会見からは、膨張するエネルギーと、これ以上待てないという現場の危機感が伝わってきた。それはポジティブな熱だ。すぐに完全プロ化を進めるわけではなく、プロ契約選手と社員選手が混在する現状を当面は維持する。それでも、できることから始めよう。まず、マネジメントをプロ化する。そこで覚悟を示すのだ。

 静岡県協会の星野代表理事は呟いた。

「今までは中央に頼りすぎていた。助けてくれるのを待つんじゃなく、小回りのきく地方からチャレンジしていかないと」

 地殻変動はいずれ、他の県に、地方に、企業に広がるだろう。準備はしていても、まだ声に出せていないだけのチームもきっとある。そして、誰かが走り出せば、歴史は変わる。

 五郎丸は言った。

「ワクワクする。その自分の感覚を信じたい」

 その言葉を反芻してみると、こちらもワクワクしてきた。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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