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ついに実現「青森山田vs青森山田」 豪雨の中ぶつかるプライドと劣等感…涙の“直接対決”に密着 

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安藤隆人

安藤隆人Takahito Ando

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posted2020/10/07 17:01

ついに実現「青森山田vs青森山田」 豪雨の中ぶつかるプライドと劣等感…涙の“直接対決”に密着<Number Web> photograph by Takahito Ando

激しい雨の中、気迫みなぎるウォーミングアップを見せる青森山田の選手たち。先頭に立つのはセカンド主将を務めた3年・内間

試合当日、ベンチに入らなかった黒田監督

 話を決勝の試合に戻す。

 この日の青森は、その異質なゲームの象徴するような激しい雨が朝から降り続いていた。しかし、選手たちは悪天候を吹き飛ばすかのように大きな声でウォーミングアップを行い、いつも以上に気迫をみなぎらせていた。

 黒田剛監督が編成したメンバーの割り振りはこうだ。まずレギュラーの11人をトップチームに配置。本来のベンチメンバーをセカンドチームとし、セカンドチームの控え選手をトップチームのサブとしてベンチ入りさせた。青森山田トップ(以下、トップ)のキャプテンは浦和レッズ内定のCB藤原優大が務め、青森山田セカンド(以下、セカンド)は3年生のMF内間隼介が主将を託された。

 黒田監督は「木曜日からの練習、(試合当日の)メンバー選考、交代、フォーメーションはすべてそれぞれのキャプテンに任せてあります」と力強く語った。

「今年は全国のトップレベルのチームと試合ができていない」と指揮官が漏らすように、従来はハイレベルなプレミアリーグの戦いのなかで自分たちの立ち位置を把握し、個々のレベルアップ、チーム作りに努めてきたが、今季はその場所がない。その危機感は選手たち自身も募らせており、藤原は「今年は全国の基準が明確にない状態。プレミアリーグ(関東)は映像で見るのですが、レベルは高いなと思うし、じゃあそこに僕らが入って何ができて、何ができないのかを確認ができない分、不安があります」と素直な思いを吐露していた。

 そこで黒田監督が例年以上に選手たちに求めたのが「自覚」だ。夏のインターハイが中止となるなど、未曾有の状況下において特殊なレギュレーションになることはもはや仕方がないこと。「サッカーができるだけでもありがたい」と話すように、あとは与えられた状況下で選手自身が個々の成長、チームの成熟につなげていけるかに懸かっている。

 試合当日、黒田監督や正木昌宣ヘッドコーチを始めとしたスタッフが、どちらのベンチにも入らず、中央に設けられた本部テントのなかで試合を見守ることを決断したのは、そのような背景や覚悟があったからだろう。

負けられないトップ、負けたくないセカンド

 結論から言うと、この一戦は青森山田にとって想像以上に大きな財産となった。

「試合前から緊張する選手が続出して、僕も整列の時に足が震えていた」(藤原)

「ずっとこの日を目標にしてきた。食ってやるという気持ちで臨んだ」(内間)

 絶対に負けられないというトップの重圧、絶好のチャンスを是が非でも逃したくないセカンドの思いは、試合序盤から激しく交錯する。

 トップの攻撃の軸は、昨年度の選手権優勝メンバーでもあるプロ注目の2年生エース・松木玖生と3年・安斎颯馬の2シャドー。17分に安斎のシュートがGKのファンブルを誘い、先制に成功した。しかし、セカンドも2年生の三輪椋平と1年生の多久島良紀のCBコンビを中心に食い下がり、さらに左MFに入った内間を中心とした鋭いカウンターで応戦。前半はセカンドがシュート数で上回るなど、互角の戦いを見せた。

 トップが攻撃の圧力を強めた後半も、セカンドは一歩も引かない。安斎の決定的なヘッドをセカンドDF藤田夏寿丸がゴールラインのギリギリでブロックするなど、青森山田伝統の堅守をトップに見せつけるシーンもあった。

 しかし、最後にトップが意地を見せる。アディショナルタイム、松木の右CKを藤原が強烈なヘッドで叩いて2-0、勝負あり。トップが面目躍如の勝利を挙げ、真の東北チャンピオンに輝いた。

【次ページ】 練習試合では圧勝することもあったが

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