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小笠原満男&ジーコの育成論・後編。
「今の選手は誰かを探してしまう」

posted2020/03/13 11:35

 
小笠原満男&ジーコの育成論・後編。「今の選手は誰かを探してしまう」<Number Web> photograph by Toru Hiraiwa

ブラジルの「遊びながら学ぶ技術を高める工夫」に驚いたと話した小笠原。“サッカー卓球”で小笠原vs.ジーコが実現する?

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池田博一

池田博一Hirokazu Ikeda

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Toru Hiraiwa

 世界トップレベルの舞台で、10代の選手の活躍が目立つようになった。今や下部組織からトップチームへ戦力となる人材を輩出していくことが、世界のスタンダードだ。鹿島アントラーズでは、2018シーズンで現役引退した小笠原満男が、アカデミーのスタッフとして育成に目を向けている。
 今季からテクニカルアドバイザーになった小笠原と、テクニカルディレクターを務めるジーコが「鹿島アントラーズイヤーブック2020」で語り合った育成論対談の特別編集。後編は、日本とブラジルでの「プロを目指す意識」と、「1対1で仕掛ける姿勢」の差について。

小笠原 ブラジルのユース年代とアントラーズのユース年代で、ジーコさんから見て、何が違うと感じますか?

ジーコ ブラジルの場合、U-13から基礎的な体力をつけていくんだ。そこで、体も技術も上がっていくという流れがあるけれど、日本の場合は、チームに加入してから基礎体力を上げていく。もう体の完成度や筋肉量が全然違うんだよね。

小笠原 そのへんは昨年までトップチームでフィジカルコーチをやっていて、日本代表でのフィジカルコーチの経験もある里内(猛)さんや、今年からユースに伊藤(亮輔)フィジカルコーチが加わってくれたから、少しずつ変えていこうという話はしているところですね。

ジーコ まあ、僕がずっと生活してきたクラブだからフラメンゴの話になってしまうんだけれど、昔からフラメンゴは、13歳ぐらいから“技術的なレベルが違う”、“もう選手としての能力が違う”となれば、すぐに栄養士をつけて食べるものを変えて、サプリメント摂取や、学校のサポート、交通費の補助をつけていく。昔からサンパウロの下部組織やサントスではやっていたけれど、最近ではパルメイラスもやり始めた。

 そうなると、選手は「俺はただの遊びでサッカーをやっているわけじゃないんだ、もうアスリートになりつつあるんだ」と、意識が変わってくる。プロサッカー選手を目指せる環境を、クラブが作り出しているという認識になり、人としても、無理やりだけど大人になっていくんだ。

小笠原 そこが、ちょっと今のアントラーズユースの選手に足りない部分で、“本気でプロになるんだ”、“そのために努力しているんだ”という選手は、少ないように感じる。“プロになれたらいいな”という感じに見えるから。

「選手は商品」という考え方。

ジーコ フラメンゴの場合は、クラブの収入にするために2つの考えを持って選手を育成している。1つは、フラメンゴのトップへ上げるために自前の選手を育てること。もう1つは、他クラブに売却することを考えた上で育成しているということ。

 ルーカス・パケタがミランへ移籍したり、ビニシウス・ジュニオールや、最近ではヘイニエルがフラメンゴからレアル・マドリーへ移籍した。今はマテウス・トゥーレル、ぺぺ、リンコンという選手たちが、フラメンゴのトップで試合に出始めていて、彼らはもしかしたら売却した3人と同等のレベルか、それ以上の選手になりそう。選手を売却した後も、すぐにそういった力のある選手が出てくるんだ。

 トップに上げるための育成と、他クラブへ売却するための育成方法は別のものだという考えを持つことも必要になってきている。

小笠原 ブラジルに行って驚いたのは、「選手は商品」とハッキリ言っていたこと。それを見定める場が育成で、定期的にテスト生を呼んで、常に入れ替えをすることで競争力を高めていた。そういうのを見ていると、競争させる環境を作らないといけないと思ったし、とにかく試合をパッと見て目につくような選手を育成していくことが大事だと感じました。

 “アントラーズのアカデミーは、トップチームの主力選手になることを目指す場所だ”ということを、もっともっと選手やコーチ陣は意識する必要があると思います。

【次ページ】 メッシは1対1で仕掛けている。

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