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明石商・狭間監督、精一杯のジョーク。
「言われたのに風呂入ってしもうた」

posted2019/08/20 16:15

 
明石商・狭間監督、精一杯のジョーク。「言われたのに風呂入ってしもうた」<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

明石商の狭間監督は、敗れて甲子園を去る時も決してユーモアを失わなかった。

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中村計

中村計Kei Nakamura

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Hideki Sugiyama

 試合前、記者に囲まれた明石商の監督、狭間善徳の表情は疲れ切っていた。

「(深夜)2時ぐらいに起きてから、寝てないんで……。選手を勝たせてやるためにも、できることはやらないかんので」

 朝まで準決勝の対戦相手、履正社のチーム分析をしていたのだという。

「3時間ぐらいは寝たかな。でも嫌な夢ばかりみとった。いつもそうなんですよ。負けた夢とか、目を瞑ったまま車を運転してて『目を開けな!』って目が覚めるとか。昨日はどんな夢だったか覚えてないけど、起きた時、嫌な夢だったな……と」

 履正社はここまで4試合、いずれも二桁安打を記録していた。

「想像以上のバッティングでしたね」

 だが、時間をかけた甲斐はあった。

「近畿大会の映像はネット裏から撮っていたんですけど、甲子園はセンターから撮ってた。そうしたら、おもしろいことがわかったんですよ」

 ただ、「おもしろいこと」とは、履正社のエース左腕・清水大成に関することだった。この日の先発は、意外にも、今大会初先発となる背番号17の2年生の岩崎峻典だった。完全に読みが外れた。

 明石商は準々決勝までの3試合で、三振の数は4個、4個、5個。2ストライクに追い込まれるとノーステップ打法に切り替え、三振しない粘り強い打線が売りだったが、岩崎にはじつに10三振を喫してしまった。

「2ストライクからのバッティングが思ったようにできなかった。三振10個ではきついですね。清水君がきたら、策はあったんですけど。こんなに三振してないです」

「今が絶頂期です」とおどける。

 頼みのエース中森俊介が初回に4失点したことが最後まで響き、明石商は1-7で敗れた。

 甲子園のお膝元であり、強豪ひしめく兵庫県で、明石商は、昨夏からこの夏まで3季連続で甲子園出場を果たした。狭間はこうおどける。

「兵庫県で3季連続なんて、奇跡ですよ。今が絶頂期です」

 履正社に敗れ、球場を去るとき、狭間は改めて球場を見渡したという。

「もう、これで最後かなと。この景色も見納めだなと思って」

 半分は冗談、半分は本音だった。

【次ページ】 決戦前夜から、すでに頭は新チームへ。

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