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麹町中が3年間で育てる「当事者性」。
運動会の伝統をやめた感動的な経緯。 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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photograph byHideki Sugiyama

posted2019/08/20 08:00

麹町中が3年間で育てる「当事者性」。運動会の伝統をやめた感動的な経緯。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

東京では私立全盛の中学受験ブームが続くが、公立の麹町中学を第1志望とする子供も着実に増えている。

戦後のスポーツで重視されてきた「同質性」。

 工藤校長のアプローチは、「教員の労働負担を減らす」ことを目的に、部活動に大鉈を振るう学校経営者とは大きく違う。部活動の縮小を進める学校経営者は、生徒の活動を後回しにしているからだ。

 そういう学校経営者に問いたい。

 課外活動の最上位概念とは、どこにあるのですか、と。

 工藤校長のスポーツに対する最上位概念も確固たるものがある。

「戦後のスポーツで重視されてきた言葉は、『頑張れ』だとか、『ガッツ』だとか、情緒的に紐づけされたものがとても多いんです。そしてチームワークが重視され、成功するためにみんな仲良くしようという同質性を重視した価値感が、ずっと支配してきたわけです。

 私は野球部の顧問を務めたことがあるので、ここでは野球を例に採りますが、野球は根本的に1対1のスポーツで、ピッチャーであれば強打者を相手に三振を取りたいし、バッターであればホームランを打ちたいはずです。野球の楽しみとは、同質性からは程遠いものだと思います」

学校の設備を遊ばせておくのはもったいない。

 工藤校長は山形県の中学校を振り出しに教員生活に入った。多くの教え子の中には、東京の修徳高校で甲子園に出場し、セガサミーを経て、2011年から2015年まで北海道日本ハムに所属した齊藤勝がいる。

「『ランディ・ジョンソンのようにスリークォーターで投げてみたら』とアドバイスしたことはありますが、優れた部活の顧問が他にいたので、私はほとんど傍観者ですよ」

 と工藤校長は笑顔を見せるが、どうやったら効率よく練習が進められるか、練習の段取りが記されたチャートをいまでも大切に保管していた。

「野球部の顧問の先生が腐心するのは、練習の効率化なんです。打撃練習が始まると、それしか出来なくなってしまいますから」

 部活動の指導に当たっていた間は、自分の子どもの運動会にも顔を出せなかったという。

 野球の指導にどっぷりの時間があったからこそ、部活動にも様々なアイデアが浮かぶ。

 これからも、部活動の指導を希望する教員がいれば、将来的には指導への対価が生ずるような仕組みを作りたいという。

「それは部活動に限定されないかもしれませんね。麹町中は都心の一等地にありながら、室内温水プールや冷暖房設備の整った体育館、武道場があります。こうした設備は夏休みの間は稼働しないことになります。もったいないと思いませんか?

 だったら、学校と社会をつないでしまえば、施設の効果的な活用ができます。地域の人たちに施設を開放し、そこで教員がスポーツの指導に当たることも可能ですし、民間の指導者が入ってくるのも歓迎です」

【次ページ】 行事や制度も、生徒が当事者として変える。

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