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五輪銅メダリスト・ワグナーも告発。
性的虐待問題に揺れる米スケート界。 

text by

田村明子

田村明子Akiko Tamura

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photograph byAsami Enomoto

posted2019/08/12 11:40

五輪銅メダリスト・ワグナーも告発。性的虐待問題に揺れる米スケート界。<Number Web> photograph by Asami Enomoto

2014年ソチ五輪団体戦銅メダル、2016年世界選手権2位、2012年四大陸選手権優勝などの実績があるワグナー。

サポートの必要性を訴えた。

 ワグナーが今になって告白したのは、もう故人になったコフリンを鞭打つためではない。フィギュアスケートというスポーツの内部の現状を世間に訴えることにより、今から活動をしていくまだ年端もいかない少女たちが、こうした目に遭わないよう、きちんとしたサポートの必要性を訴えたのである。

 長い間アメリカの女子を牽引して来た彼女が、後輩たちのためにあえて不快な思い出を公表したのだ。

エリートスケーターたちの特殊な環境。

 ワグナーの告発が警告しているのは、エリートスケーターという特殊な環境にいる少女たちの現実である。

 筆者は15歳でアメリカに留学して以来、現在までずっとアメリカで暮らしてきた。高校生活は3年間寮で暮らし、良いとか悪いという判断ではないが、アメリカのティーネイジャーたちが、どれほど性的に早熟であるかを目の当たりにした。

 一般のアメリカの17歳だったら、おそらくベッドに忍んでこられた時点で、嫌な相手なら即「出てって」とためらいなく口にしただろう。

 ワグナーを批判しているのではないことをくれぐれも強調したいが、「やめて」と口にするまでにこれほどのためらいを感じたというワグナーは、普通のティーネイジャーが過ごすような思春期を体験してこなかったのに違いない。

 これは彼女に限らず、多くのエリートスケーターたちが、どれほど一般社会から隔離された環境で育ってきたのかという意味でもあると思う。特殊な才能を持って厳しい訓練を続けていく一方で、一般の子供たちが当たり前に経ていく成長過程を犠牲にしてきたという一面もあることは否定できない。

【次ページ】 「とても19歳の部屋とは思えなかった」

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