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「スポーツで子供達に夢を」って?
湘南・梅崎司が見つけた、その答え。 

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安藤隆人

安藤隆人Takahito Ando

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photograph byTakahito Ando

posted2018/09/08 17:00

「スポーツで子供達に夢を」って?湘南・梅崎司が見つけた、その答え。<Number Web> photograph by Takahito Ando

ベテランとはいえ、そのプレーの“キレ”は今も凄まじい。梅崎司は、湘南の地でしっかり未来を掴んだ。

曹監督のサッカーを体現したゴールを。

 1-0で迎えた70分、松田が右サイドの裏のスペースに浮き球のパスを送ると、MF岡本拓也がボールに反応する。その瞬間、サイドバックとCBの間にできたスペースに梅崎が猛然と走り込む――。

「奪ってから早くというのが自分達のスタイル。あのシーン、(山崎)凌吾も(松田)天馬も(岡本)拓也も俺も、相手よりいち早く動き出せた。並走したときは拓也がダイレクトで出すか、もう1つ運ぶか分からなかったので、どちらが来ても良いように準備をしていたんですよ」

 梅崎は恐ろしく冷静だった。岡本がダイレクトでアーリークロスを送り込むと、梅崎はトップスピードのまま右足を振り抜く。そして、ゴール裏のサポーターの前まで走っていき、目の前で雄叫びを挙げた。

 2試合連続、ルヴァンカップでは通算4得点目となるゴールは、貴重な追加点となった。

「ゴールシーンは本当に良いカウンターになった。チームとして描いていた通りの展開だった」

 梅崎が曹監督のサッカー哲学の体現者となったことを実証するとともに、自らが信じるスタイルの大切さを子供達に教えることができた瞬間だった。

子供達ひとり1人に目を合わせる気持ちで……。

 この試合、湘南は3-0で快勝し、梅崎も後半アディショナルタイム2分まで走り続けた。この勝利で、湘南は前身のナビスコ杯時代から数えて22年ぶりとなるベスト4進出に王手をかけた。

「梅崎~!」

「梅崎選手~!」

 試合後に行った挨拶のための場内一周で、彼は子供達の幼くも大きな声援を受け続けていた。子供達のひとり1人に目を合わせるように、何度もガッツポーズと親指を立てて応え続けた。

「自分をチームにアジャストさせるプロセスをしっかりと踏んできたから、もう1つ意識を上に持っていくことができた。だからこそ、点が獲れるようになってきたんだと思ってる。だから尚更、サポーターやお客さん、子供達に、より自分らしいプレーを見せたいし、伝えていきたいと思っています」

 プロサッカー選手を夢見る子供達が、スタジアムに足を運んで選手の懸命なプレーを一生懸命応援する。

 そして、夢を叶えた側の選手は、スタンドで観戦している子供達に自らのメッセージを送り続ける――。

「子供達に夢を与える」

 この言葉の本当の意味を、31歳にして故郷へ錦を飾った男は確かに感じとったのだ。

 自らを解き放ってくれた湘南の偉大なる指揮官の下で、梅崎はこれからもピッチからスタンドの子供達へ、幸福のパスを送り続けていくだろう。

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