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あの夏を許せない。1984年大阪、
最強PL学園に挑んだ男たちの物語。 

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鈴木忠平(Number編集部)

鈴木忠平(Number編集部)Tadahira Suzuki

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photograph byYoshio Toyoda/Sports Graphic Number

posted2018/07/31 15:00

あの夏を許せない。1984年大阪、最強PL学園に挑んだ男たちの物語。<Number Web> photograph by Yoshio Toyoda/Sports Graphic Number

近大付属高野球部監督の頃の豊田義夫。その後、近大の他の系列高や、社会人野球クラブなどの監督を経て、平成27年に利根商の監督に就任していた。

「でも、ああ……もし戻れるのなら」

 だからこそ、坂口の胸は後悔で覆われる。

「今でも夢に出てきますよ。あの時、交代せずに、清原さんに投げていたら、どうだったのかなって……」

 ただ、それは豊田の決断を責めるようなものでも、自分が投げていれば抑えられたかもしれないというものでもない。

「あのホームランは俺が食らっときゃよかったって、そう思うんです。自分の野球人生としては。打たれないままマウンドを降りるより、ボコボコに打たれたかったなって。そうしたら、もっと本気で野球に取り組んだかもしれないし、俺は自分のために野球ができたかもしれない。人生変わったかもしれんなって……」

 あの夏、PL戦のマウンドにいたのは、己のためではなく、豊田のために投げる15歳の少年だった。今ならわかる。青すぎたのだ。

「豊田義夫という人に好かれて、自分もあの人の義理人情が好きで、あの人を甲子園へ連れて行くためにやっていた。自分のためじゃなかったんです。今から思えば、じゃあ、自分の夢は何だったんだ? って。それがあれば、誰が監督になろうが、突っ走っていけたと思うんです。ガキだったんですよね……。桑田さんなら、どんなことがあろうと、自分のために努力して、プロにいっているでしょう」

 坂口もまた、豊田とは別の理由で、あの夏を許せずにいる。

 近畿大学を卒業すると同時に野球を辞めた坂口は、職を転々とする時期を経て、父と同じように、整骨院をやっている。

 プロにも行けたと言われていた逸材は、今、生まれ育った和泉で人生を送っている。

「野球人生としては悔いだらけなんですけど、人として悔いはないんです。義理とか人情を捨てたくないし。うん。でも……。ああ……、もし戻れるんだったら、一番戻りたいのは中学3年かな。人生を選択した時ですから。あそこに戻ったら……、やっぱり、憧れていたPLにいって野球やっているのかなあ」

 白球の感触は、もうずいぶん遠くなったが、人生を変えた夏の記憶だけは、いまだ鮮やかすぎるほどで、心の中をいったりきたりしている。

 3年前、豊田が大阪を離れて、群馬の利根商でユニホームを着るかどうかを迷っている時、相談されたことがあった。

「僕はその時に言うたんですよ。『親父、俺は1度でいいから何かで日本一になりたいと思って野球やったけど、1年の夏であかんようになった。親父の場合、史上最高齢の甲子園っていうのが、日本一が、目の前にぶら下がっているじゃない。行ってきてください』って。『畳の上で死のう思ったらあかんで。ノックバット持って死んだらええねん。労災おりるから、お母ちゃん、喜ぶでえ』って(笑)」

ついに……ノックバットを置いた豊田。

 甲子園100回目の夏、豊田はやはりグラウンドに立っていた。聖地を仰ぎ見ていた。

 7月14日。群馬大会2回戦、利根商は敗れた。これを限りにノックバットを置くと決めて挑んだ最後の夏も、願いはとどかなかった。

「ずっと、野球だけやって、甲子園だけ目指してきましたから。終わったらどうなるのか。想像もつきませんねえ。寂しいやろうなあ……」

 ノックバットは最後の最後まで離さなかった。

 やはり、豊田は夏の甲子園に取り憑かれている。いったい、その魔力とはなんだろうか。

 おそらく、豊田も、坂口も、あの夏を許すことはできないだろう。同時に、人生の大切な一部でもある。

 光と影、満足と後悔、あらゆる感情をともなったまま、それぞれの人生の中をただよい続けるのだろう。

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