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バルサイズム最後の継承者が中国へ?
イニエスタの選択は何を意味するか。 

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吉田治良

吉田治良Jiro Yoshida

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photograph byGetty Images

posted2018/04/19 11:30

バルサイズム最後の継承者が中国へ?イニエスタの選択は何を意味するか。<Number Web> photograph by Getty Images

エースはメッシでも、バルサをバルサたらしめていたのはイニエスタだった。彼の移籍はクラブ文化そのものの危機なのだ。

イニエスタは、金では動かない。

 移籍先の候補には、元ブラジル代表のパトなどが在籍する中国の天津権健が挙がっている。3年契約で年俸は3700万ユーロ(約48億円)と破格の条件提示があったと伝えられるが、誠実さを絵に描いたようなイニエスタが大金に目がくらむはずもない。

 全盛期のパフォーマンスをフルタイムで維持できなくなったこと、クラブがこの冬にフィリペ・コウチーニョを獲得し、さらにグレミオの新星アルトゥールとの契約が合意に達するなど、自身の“後釜”を外部から買い集めていること。その2つが背中を押す理由だと、スペインのメディアは推察する。

 だが、果たしてそれだけだろうか。

 ここからは憶測の域を出ない。

 もしかするとイニエスタは、ここ数年のバルサのサッカーに、どこか居心地の悪さを感じていたのではないか。

個人のスキルに依存しすぎるバルサ。

 ルイス・エンリケ監督に率いられた2014-15シーズンからの3年間は、タイトルこそ獲得したものの、MSN(リオネル・メッシ、ルイス・スアレス、ネイマール)の個人能力に依存するカウンタースタイルは、バルサイズムに背を向けるものだった。

 ポゼッションサッカーの中核を担ってきたシャビが、その初年度限りでチームを離れたのは偶然ではない。

 今シーズンから指揮を執るエルネスト・バルベルデは、不安定だった守備にテコ入れを施し、より堅実なサッカーで勝点を積み上げてきた。2シーズンぶりのリーガ制覇はもはや目前で、無敗での完全優勝も夢ではない。

 だが、攻撃に関しては結局のところメッシ頼みだ。アトレティコ・マドリーとの天王山(第27節)にせよ、0-2から土壇場で追いついたセビージャ戦(第30節)にせよ、すべてエースの一振りに救われてきた。

「いつの時代もバルサは“魅せること”を大切にしてきた。だからこそ人々の尊敬の念を集められたんだ」

 かつてそう話していたイニエスタは、テクニックよりもフィジカルが、感性よりも理性が先に立ち、なおかつ特定の個にすがるサッカーに、糊の効きすぎたシャツを纏うような息苦しさを感じていたのではないか。

【次ページ】 シャビ、イニエスタの系譜が途絶える?

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アンドレス・イニエスタ
バルセロナ

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