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涙の選手、怒る国民、居直る指揮官。
W杯を失ったイタリア「世界の破滅」。 

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弓削高志

弓削高志Takashi Yuge

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posted2017/11/14 18:15

涙の選手、怒る国民、居直る指揮官。W杯を失ったイタリア「世界の破滅」。<Number Web> photograph by Getty Images

イタリアのゴールをともに守り続けたブッフォンとボヌッチがピッチでかわした最後の抱擁は、あまりにも物悲しかった。

「そりゃあキミぃ、アポカリプスだよ」

 ホームの大声援を受けるアズーリは、初戦とは打って変わって戦う集団だった。ベントゥーラ体制下となって初めて見る光景にどこか違和感を覚えつつ、時計の分針は進んでいった。

 60分、初戦で鼻骨を折られたDFボヌッチが、邪魔だと言わんばかりに顔面のガードマスクを剥ぎとった。

 64分、ベントゥーラはFWベロッティとFWエルシャーラウィを同時に投入したが、ボールは繋がらない。76分にはFWベルナルデスキまで入れたが、攻勢はペースダウンした。

 途中出場した3人の若手FWと先発したFWインモービレの4人同時起用など、予選を通じて一度も試したことがない。破れかぶれに等しい大博打が成功するはずもなく、逆にスウェーデンのカウンターからあわや失点のピンチを何度か迎えた。

 残り時間10分を切り、アズーリの選手たちは決死の形相でボールを追った。彼らにとってサン・シーロを包んだ国歌「マメーリ賛歌」の大合唱がどれほど支えになったことか。

 95分、アディショナルタイム2度目のCKに攻撃参加したGKブッフォンは、自らのゴールマウスに戻る間もなく、タイムアップの笛を聞いた。

 もし、アズーリがロシアW杯行きを逃したら?

 小役人風情のイタリア・サッカー連盟のタヴェッキオ会長は予見していた。

「そりゃあキミぃ、アポカリプス(世界の破滅)だよ」

誤解を恐れずにいえば、9月に敗退は決まっていた。

 イタリアとスウェーデン両国の実績や知名度、実力を考えれば、アズーリの予選敗退は波乱といえるだろう。72分に途中出場したスウェーデンのMFローデンの所属先は、セリエAの残留争いをするクロトーネだ。

 だが誤解を恐れずにいえば、イタリアの敗退は9月の時点で決まっていた。具体的に言うと、スペインとのアウェーゲームに敗れた9月2日だ。

 手も足も出ずに0-3の完敗を喫したマドリードでの試合で、イタリアの選手たちの心は完全に折れた。特に攻撃陣は完全に自信を失った。

 スペイン戦前の予選6試合で18ゴールを奪った攻撃陣は、マドリード遠征の後の5試合で3点しか奪えなかった。1試合平均のシュート数は半減し、決定率も約4分の1にまで激減した。

「あの敗戦は相当なショックだった。ひと月経って代表にまた集まって練習しても、身が入らない。あのスペイン戦の後、それまでの代表はどこかへ消えてしまった」

 試合後のブッフォンは一回り小さく見えた。決して望んでいなかった形で訪れた代表引退のはずだが、鉄人の言葉は変わらぬ重みを持っている。

【次ページ】 試合前、監督は「お前らで勝手にやれ!」と指揮を放棄。

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