第94回箱根駅伝(2018)BACK NUMBER
「箱根路から世界」に必要なものとは?
山梨学院大が培う“スピリッツ”。
posted2017/11/13 12:20
text by
別府響(文藝春秋)Hibiki Beppu
photograph by
Kyodo News
「井上、ありがとう!」
2015年の第91回箱根駅伝。
山梨学大の上田誠仁監督は、3区を走り終えた主将の井上大仁に、こう声をかけずにはいられなかった。
この年の山梨学大はエースの留学生ランナー、エノック・オムワンバを大会直前の故障で欠き、急遽出走が決まった1区の選手が大きく出遅れた。日本人エースである井上にたすきが渡った時には、20位の最下位という苦しい展開になっていた。
「普通に考えると、あの位置でたすきを受けて走るのは、流れを考えても思った以上に難しい。本当に力がある選手でないと、ああいう場面で悪い流れを跳ね返す走りはできないと思います」
そう上田監督自身が言うような厳しい状況の中で、井上は区間3位と力走。その魂の走りはチームに火をつけ、翌日の復路で大逆転でのシード権獲得へとつながった――。
「箱根から世界へ」を体現した井上の活躍。
その井上は2年後の今年8月、マラソンの日本代表として、ロンドン世界陸上の舞台に立った。
選考レースの東京マラソンで2時間8分22秒の快走を見せて、文句なしの代表選出。弱冠24歳にして、箱根駅伝の目標の1つでもある「箱根から世界へ」というテーゼを体現して見せた。
山梨学大は過去にも大崎悟史(現山梨学大コーチ)、尾方剛(現広島経大監督)らマラソンの五輪代表を輩出している。では、なぜ彼らは箱根駅伝という枠を飛び出し、世界の舞台へ羽ばたくことができたのだろうか。