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木村沙織がいない女子バレーの今後。
引退試合で再認識した存在の大きさ。
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph bySankei Shimbun
posted2017/03/07 17:30
現役生活ラストとなったVリーグ・プレーオフ2次リーグ最終戦の対NECは1-3で敗戦。最後は笑顔でコートを後にした。
妹・美里が最終戦に気づいた「姉じゃなきゃ」。
リーグ開幕直後は木村のコンディションが上がらず、チームも連敗が続く苦しい展開を強いられた。なかなか打開策が見えずにいたが、昨年末の天皇杯・皇后杯全日本バレーボール選手権大会から、木村の対角に迫田、セッター対角のオポジットに堀川真理を入れた攻撃的布陣を採用。女子のチームはリベロを含めた3人の選手でレセプションを担うのが主流である中、木村と、妹でリベロの木村美里、2人で分担する策を選択した。
木村は「今までもずっと自分はレセプションで狙われてきたので、あまり特別なことだとは感じなかった」と言うが、レギュラーリベロとなって2シーズン目の美里にとっては、至難の業だった。
「私がサーブを打つ側だったら、間違いなく妹を狙う。自分の実力を考えたら、2枚レセプションなんて絶対に無理だ、って思いました」
どの範囲をどれだけ守るか。チームのミーティングに加え、2人で何度も話し合った。ポイントを取られても引きずらないこと。セッターにピタリと返そうとするのではなく、まずは上に上げること。姉からのアドバイスはいつも的確で、常にカバーしてくれる姉の存在が心強くもあったが、本来自分が取るべき範囲のボールも沙織が取りに来るため、2人が交錯し、「お互いにイラっとしながら試合を続けたこともあった」と美里は言う。
だが、最終戦で姉が脚をつってコートを去った後、別のパートナーと同じシステムに臨んだ時、これまで取り組んできたことがどれほど難しいことだったのかを痛感した。
「姉がいたからできたことで、姉じゃなかったらできなかったことなんだ、と改めて思い知らされました」
木村沙織にしかできないことは、数えればキリがない。
木村沙織でなければ、できなかったこと。
それは妹との2枚レセプションに限らず、数え上げればキリがないほどにある。
サーブを打つ時は同じ場所から打つばかりでなく、相手の攻撃を予測し、助走に入ろうとしている選手を前後に動かしてサーブを取らせる。また別の時は、攻撃に備えてすでに準備をしている攻撃力の高い選手の前を狙い、他の選手に取らせて助走コースを塞ぐ。
東レで3連覇がかかった'09-'10 Vリーグの決勝も、ロンドンオリンピックの中国との準々決勝や韓国との3位決定戦も、サーブで狙われても屈せずに相手のエースと打ち合いを展開。空中で空いたコースを見て素早く強打を放ったかと思えば、レシーバーのいないコートの奥へボールを押し込むなど、巧みなプレーを難なくこなす。
瞬時の判断力と、勝負強さ。
大一番になればなるほど、木村の存在感はいつも圧倒的だった。