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「ガムシャラさ」によりかからない。
状況判断こそが久保建英の特別さ。
posted2016/11/07 17:30
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph by
J.LEAGUE PHOTOS
衝撃的なデビューを飾ることはできなかった。
それでも、久保建英は確かに「違い」を見せつけた。
11月5日に行なわれたJ3リーグのAC長野パルセイロ戦で、FC東京U-23に所属するこの15歳はJリーガーとしての第一歩を記した。J1やJ2と同列で語るのは無理があるものの、Jリーグという大きなくくりで言えば、史上最年少記録を更新したことになる。
久保のベンチ入りが事前に報道されていたため、駒沢競技場には7653人の観衆が詰めかけた。FC東京U-23のホームゲーム平均入場者数は、3000人に届かない。バルセロナの育成組織に在籍した少年への注目度が、観客動員を大幅に跳ね上げたのだ。
メディアも殺到した。テレビカメラもスチールカメラも、試合前からFC東京U-23の背番号50を追いかけた。試合後には30人以上の記者に囲まれた。
過剰な視線、身体的格差、上位チームという難状況。
ユニフォームに着替える瞬間は、後半開始とともに訪れた。「ボールを握れず、前へ出ていくこともできなかった」という前半を受けて、FC東京U-23の中村忠監督は3-4-2-1の「2」の一角に久保を指名する。
この時点でスコアは0-2だった。そもそもの力関係も、FC東京U-23は劣勢である。横浜F・マリノスやFC東京に在籍した三浦文丈監督が率いる長野パルセイロは、J1でのプレー経験を持つ選手をズラリと並べている。全30試合のうち27試合を消化した試合前の順位は、長野が16チーム中6位でFC東京U-23は12位だった。
フットボーラーとしての才能に溢れているといっても、久保はまだ中学3年生だ。全身に突き刺さるような視線を浴びて、居心地がいいはずはない。
しかも、対戦相手はJ3リーグの上位チームだ。ビハインドを追いかける展開でもある。167センチ、60キロの身体は当然ながら成長過程で、肉体的な逞しさを身につけるには至っていない。同世代では抜きん出た技術を持つが、J3では身体能力の格差が立ちはだかる。デビュー戦として用意された舞台は、たやすいものではなかった。