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“美味しい時間”を譲っての12ゴール。
34先発で33回途中交代した佐藤寿人。 

text by

飯尾篤史

飯尾篤史Atsushi Iio

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2015/12/08 11:30

“美味しい時間”を譲っての12ゴール。34先発で33回途中交代した佐藤寿人。<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

佐藤寿人は今年、中山雅史の持つJ1通算157ゴールに並んだ。来年その記録が更新されることは確実だ。

全34試合に先発し、33回の途中交代。

 内容の濃いトレーニングを積んで年間1位になったからこそ、初めて経験したチャンピオンシップではプレッシャーを感じ、恐怖心すらあったと佐藤は明かす。

「もしチャンピオンシップで敗れたら、年間1位になったというのに報われない可能性があったわけですから。本当に苦しかった。今は勝ち獲ったからホッとしていますけど、これで勝てていなかったらと思うと、ゾッとします」

 もっとも、チャンピオンシップ優勝という最高の形で結実したことで報われたのは、チームだけではなかった。

 佐藤自身もまた、報われたひとりだった。

 いったい何が? チームに捧げてきた自己犠牲の精神が、である。

 佐藤は今シーズン、リーグ戦全34試合に出場し、12得点をマークしている。

 Jリーグのデータサイトを覗いてみると、出場記録の佐藤の欄には、途中交代を意味する「▽」の記号がずらりと並ぶ。

 フル出場を意味する「○」の記号は、セカンドステージ7節の柏レイソル戦にしか記されていない。全34試合に出場しながら、33試合は途中交代。それも終了間際ではなく、50分台から70分台までの比較的早い時間帯での交代である。

“美味しい時間帯”にピッチを去る無念さは?

 もちろん、佐藤に期待されているものがゴールであることに変わりはない。だが、それと同じくらい求められたのが、時に自陣に戻って相手のボランチのマークをするほどの守備意識とハードワーク。チーム戦術を遵守したうえでスーパーサブの浅野拓磨にバトンを託す役割だった。

 スターターの佐藤がDFを揺さぶり、フレッシュな浅野が相手を仕留める――。この継投策は、チームの必勝パターンとして確立された。

 佐藤はキックオフの笛が鳴るのと同時に、いかにDFの背後を取るか、DFの視野から逃れるか、思考を巡らせ、駆け引きを開始する。DFの個性を観察し、その裏をかき、逆を突くために頭を働かせ、自らの動きの質を研ぎ澄ませる。

 そんな職人気質のストライカーにとって、まさにここからDFが消耗し、集中力が衰えはじめる、ストライカーにとって“美味しい時間帯”を迎えるところでピッチから去らなければならない無念さは、いかばかりのものか。

【次ページ】 寿人「自分の役割も変わってきた」

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