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ロッシとマルケス、両王者の報復戦。
マレーシアGPが史上最低のレースに。 

text by

遠藤智

遠藤智Satoshi Endo

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photograph bySatoshi Endo

posted2015/10/31 10:30

ロッシとマルケス、両王者の報復戦。マレーシアGPが史上最低のレースに。<Number Web> photograph by Satoshi Endo

“キック”直前、ロッシがマルケスを数秒見つめたとき、彼は何を考えたのだろうか。

マルケスは誰よりも優れた車幅感覚を持っている。

 しかし、マルケスに邪魔されたと確信したロッシは、「マルケスがアルゼンチンGPの接触を恨んでいるからだ」ともコメントしている。それを受けてマルケスが、「わかったよ。それなら、サポートするっていうのはどういうレースか見せてやろうじゃないか」と思い込んだとしても不思議はない。

 一方のマルケスは、ある時期までロッシをヒーローだと言い続けてきた。しかし、今年の第3戦アルゼンチンGPで起きた接触事故を境に、彼にとってロッシはヒーローではなくなっていた。

 その事故とは、コーナーの立ち上がりでラインを変えたロッシの後輪にマルケスのフロントタイヤが接触し、あっという間に転んだというものだ。

 当時も議論沸騰となったが、その接触事故は単なるライン変更だけではなく、ロッシが意図的にアクセルを戻し減速したのが原因ではないかと思う。誰よりも優れた車幅感覚をもっているマルケスが簡単に接触するわけがないからだ。

ロッシはロレンソとの戦いに集中すべきだった。

 もちろん、証拠はない(走行データを見れば一目瞭然だが)。真相はコース上で戦う者しか知り得ないことであるが、ヒーローとあがめたロッシとの信頼関係を失うに十分なダーティで危険な走りだったとしたら、マルケスがロッシをチャンピオンにさせたくないと思ったとしても不思議ではない。

 それにしても、実に嫌なレースだった。

 ロッシはロレンソとの戦いに集中したかったというが、僕もそうするべきだったと思う。一方のマルケスは「ロッシのいう、ロレンソをサポートするレース」を見せつけたのだろう。

 そして、スピードに優るマルケスの嫌がらせに(スピードがあれば、ロッシはさっさと前にいけたはず)腹を立てたロッシが、7周目の14コーナーでその報復に出たというのが今回の結末である。

【次ページ】 「ナイスレース」に「ナイスキック」。

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