野球善哉BACK NUMBER
強豪校が初出場校に次々敗れ――。
甲子園の新たなる時代を感じた時。
posted2015/08/13 16:30
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
Kyodo News
時の変動を予感させる。
近畿地区を代表する強豪といわれてきた、智弁和歌山(和歌山)、天理(奈良)が初戦敗退。それも初出場校の津商(三重)と創成館(長崎)に敗れるという現実には、時代の移り変わりを感じずにはいられなかった。
「見ての通りです。鍛え方が足らんかったということです」
現役最多の甲子園勝利数63を誇る、智弁和歌山の高嶋仁監督は、まさかの初戦敗退に苦虫を噛み潰したかのようにコメントした。
もともと、智弁和歌山といえば、初出場校に強いチームだった。過去には、都立城東(東京)や長野工(長野)、札幌第一(北海道)の初陣に立ちはだかり、その都度、強豪校の存在感を示してきた。
今大会で対戦した津商は、春・夏を通じて初めての甲子園出場。特にスター選手がいるわけでもなく、2010年に就任した指揮官の宮本健太朗があの手この手で育て上げてきたチームだった。
強豪校に初出場校が果敢に攻めていった結果……。
智弁和歌山の試合早々の出来がそれほど悪かったわけでもない。
1回裏に2点を先取。先行していく野球を得意とする智弁和歌山からすれば、むしろ、良い滑り出しだったといえる。しかし、試合を重ねていくうちに、守備にほころびが出始め、崩壊してしまったのだ。
4回表、エースの斎藤祐太がイージーな投手ゴロをさばいたあと、一塁へ悪送球。これに始まり、内野の捕球ミスや外野手の暴投など、7つの失策を重ねて合計9失点。4-9で敗れた。
ベースカバーの遅れや記録には出ないミスを加えると、失策の数は二桁になっていたかもしれない。甲子園の舞台でこれほどに崩れる智弁和歌山など見たことがない。
とはいえ、野球にミスはつきもので、この要素だけで時代の移り変わりを感じたというわけではない。津商の戦い方によって、智弁和歌山が崩れたということに、新時代の流れを感じたのだった。
例えば、幸先よく先制をした1回裏の智弁和歌山の攻撃。
津商の先発・坂倉誠人の立ち上がりを叩いた形だが、ここで津商は、初出場校とは思えぬ戦術をとっている。
智弁和歌山の先頭・野口春樹が三塁打で出塁したケース、先制点を恐れる場面だが、津商の守備陣は前進守備を敷かなかった。初めての舞台で失点を恐れることなく、後ろを守ったのだ。この場面では、その守備位置の効果がなかったが、智弁和歌山ほどの強打を前にしてのこの姿勢は、彼らの戦い方を如実に示していたように思う。
つまり、「攻めて」いたのだ。
1点を守ろうとするより、その1点与えてもいいから、次に切り替えていこう――まだ37歳の指揮官の「肚」の据わり方がこのチームの強みだった。