オリンピックへの道BACK NUMBER
過剰な期待が、選手のメンタルを毒す。
桐生祥秀が陥った「ふわふわ」の罠。
posted2015/04/20 11:40
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Tsutomu Kishimoto
「悔しいというだけです」
4月19日、織田記念国際100m決勝を終えて記者会見の席についた桐生祥秀(東洋大)は、第一声、そう口にした。
タイムは10秒40。ケンブリッジ飛鳥(日大)に敗れ、塚原直貴(富士通)と同着での2位。日本の選手に敗れるのは、2013年11月以来のことだ。持ち味であるはずの後半の伸びを欠いた走りも、らしくなかった。
前日の200mは、久々に大会で走った距離だったことから、決勝では「距離への恐怖を感じて」、好走を見せた予選からタイムを落とし3位に甘んじた。その悔しさを晴らすために「勝ちたい」と臨んだ100mだった。何よりも、記録への期待が高まる中でのレースだった。
3月28日にアメリカのテキサス州オースティンで行なわれたテキサス・リレーの男子100mで、追い風参考ながら9秒87をマークして優勝。以来、桐生には大きな注目が集まっている。
反発の強いトラックで9秒台が期待されたが……。
織田記念国際には200名をゆうに超える取材陣が押し寄せた。メインスタンド側の観客席から、予選、決勝と桐生の名前がアナウンスされるたびに誰よりも大きな拍手が起こったことも、期待の表れだった。
しかし、9秒台はかなわなかった。
自己ベストの10秒01からも大きく遅れた。
「悔しい」と言うのはごく自然な発言であったかもしれない。
大会前には調子のよさを口にしていた。にもかかわらず、「唯一いいところは、(18日の)200m、100mと4本走って、怪我なく終わったところ」という走りで大会を終えた。
そこには、短距離、100mの難しさが示されていた。
一つには、大会の気象条件がある。
織田記念へと期待が高まった理由は、会場のエディオンスタジアム広島が反発の強いトラックであることから好タイムが出やすいという条件があったからだ。さらに過去の開催においても、好天と追い風に恵まれやすい点も、その期待に拍車をかけていた。
だがこの日は違った。