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大器スタントンとイチローの技。
~マーリンズを待つ奇跡の化学反応~ 

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芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

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posted2015/03/07 10:35

大器スタントンとイチローの技。~マーリンズを待つ奇跡の化学反応~<Number Web> photograph by AFLO

同じ外野手のイチローと談笑をするジャンカルロ・スタントン(中央)とマルセル・オズナ。マイク・レドモンド監督も「イチローのような選手と一緒にプレーすることで学ぶことが多い」と、若手への好影響を期待している。

18歳の時にシングルAで39本塁打を放ち、メジャーへ。

 しかしスタントンは、急速に成長した。18歳の'08年、シングルAでいきなり39本塁打(125試合)を放ち、'10年6月にメジャーに昇格すると(このころは父方のミドルネームを取ってマイク・スタントンと呼ばれていた)、100試合で22本塁打。198cm、109kgの恵まれた体躯に加えて、苦手だったスライダーを打ちこなせるようになったのが飛躍のきっかけだろう。まだ20歳の若さだった。

 その後の彼は順調に伸び……といいたいところだが、障害はけっして少なくなかった。'11年には太腿を、'12年には膝を痛め、'14年9月には顔面に死球を受けたのだ。

 なかでも死球事件は衝撃的だった。ぶつけた投手はブルワーズのマイク・ファイヤーズ。スタントンの左頬は裂けて陥没し、砕かれた歯の破片が唇と口内にいくつも突き刺さった。加えて複雑骨折。手術は長時間にわたり、彼の2014年シーズンはそこで終了してしまったのだ。最終成績は145試合で37本塁打(ナ・リーグ本塁打王)。シーズン最後まで出ていたら、クレイトン・カーショーとのMVP争いはもっときわどくなったにちがいない。

オーナーは、主力を売り飛ばすので有名だった。

 そんな大怪我をしたにもかかわらず、マーリンズはスタントンに超大型長期契約を持ちかけた。意外だと感じた人は少なくなかったはずだ。なにしろマーリンズのオーナーは、強欲と主力選手のファイアセール(売り飛ばし)で悪名高いジェフ・ローリアである。安く買ったエクスポズを高値で売ってボロ儲けしたのはともかくとして、'03年にマーリンズがワールドシリーズを制覇したあと、チームを土台から崩すような「解体セール」をやってのけたのには唖然とさせられた記憶がある。

 そんな球団運営に対して、スタントン自身もツイッターを通じて不満を訴えたことがある。'11年末にFAで獲得したマーク・バーリーやホゼ・レイエスを、1年足らずでさっさとブルージェイズにトレードしたときのことだ。

 ただ、さすがにこのあとは、ローリアも料簡を改めたらしい。コミッショナーだったバド・シーリグの忠告にも耳を傾け、チームの地道な基礎作りに意欲を示すようになったのだ。スタントンに対する13年契約の提示(球団側にはなんの保険もかけられていない。もしスタントンが大怪我をしたり大スランプに陥ったりしたら、「世紀の無駄遣い」と叩かれるのは必至だ)も、こうした発想の一環と見るべきだろう。

【次ページ】 スタントンにとっても、イチローはまさにお手本。

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