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メッシが初めて語った移籍の可能性。
本人の「幸せ」こそがファンの望み。 

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工藤拓

工藤拓Taku Kudo

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posted2014/12/03 10:50

メッシが初めて語った移籍の可能性。本人の「幸せ」こそがファンの望み。<Number Web> photograph by AP/AFLO

11月22日のセビージャ戦、チームメイトに胴上げをされ、子供のような表情のメッシ。

カタルーニャの政治状況に左右されるメッシ。

 はたしてメッシに、バルサ以外の未来を検討させている原因は何なのか。これまで唯一の障害は現執行部との不和だと見られてきたが、ここに来て新たな原因が浮上している。昨年夏から続いている、脱税疑惑を巡る検察局との裁判である。

 '07-'09年の間に約400万ユーロの納税義務を怠ったとして、メッシが検察局から告訴されたのはもう1年半も前のことだ。だがラファ・ナダルやイケル・カシージャス、シャビ・アロンソら同様の疑惑をかけられたアスリートたちが内々に問題を解決した一方、メッシだけは既に3000万ユーロ近くの追加納税を行なったにもかかわらず、いまだに執拗な責任追及が続いている。

 独立機運が高まるカタルーニャとスペイン中央政府の関係が悪化している状況下、スペイン当局は自身をカタルーニャに対する見せしめの餌に使っているのではないか。そのような疑念が膨らむ中で、メッシは国外への移籍を意識するようになっている。メッシの周囲からは、そんな情報が漏れてきているのだ。

 クラブ側が抱える現実的な問題も明るみに出てきている。6月のワールドカップ前に行なった契約更新により、メッシの年俸はそれまでの1200万ユーロから2000万ユーロに跳ね上がった。クラブが実際に負担する税込み額で言えば、それは5000万ユーロ近くにも上るという。しかも契約の中には、前シーズンに得たインセンティブ分が翌シーズンの固定額に加えられるという条件があるため、メッシの年俸は今後さらに高くなっていく可能性が高い。

メッシのキャリアは下り坂に差し掛かったのか。

 一方で、今年27歳を迎えたメッシのパフォーマンスがこれ以上高まる見込みは薄い。むしろ相次ぐケガに悩まされた昨年を境に、彼のキャリアは下り坂に差し掛かったと見るべきだろう。そしてそのような選手を維持するために毎年5000万ユーロ以上のコストを負担できるほど、クラブの経済状況に余裕はないのである。

 サラ超えを実現したセビージャ戦の3日後。メッシはまた1つ偉大なる記録を打ち破った。APOELニコシアとのアウェー戦にてまたもハットトリックを記録し、ラウール・ゴンサレスが持っていたCLの最多得点記録を更新したのだ。

 ワールドカップのために力を温存していると言われ続けた昨季と比べ、今季のメッシは心身共にコンディションを上げてきている。ネイマールとの連携は確実に向上しているし、右ウイングとCFのポジションを交換しながらプレーすることで、新加入のスアレスとの共存も今のところうまくいっている。

 にもかかわらず、ピッチ外の問題が原因で彼が他クラブへ行ってしまうことなど、本当にあり得るのだろうか。

【次ページ】 最高のパフォーマンスには、「幸せ」が必要。

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