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石川遼がトレーナー不在で戦う理由。
「誰かに頼らないといけない体は嫌」 

text by

桂川洋一

桂川洋一Yoichi Katsuragawa

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photograph byGetty Images

posted2014/08/21 10:30

石川遼がトレーナー不在で戦う理由。「誰かに頼らないといけない体は嫌」<Number Web> photograph by Getty Images

今季はPGAレギュラーシーズンを75位で終え、危なげなくシード権を獲得した石川遼。

トレーナーが帰国した直後、右手に痛みが。

 今回、トレーナーが帰国した直後のある日、右手の中指に突然痛みを覚えた。「どうしたんだろう? と思ったけれど、誰もいないし、自分でチャレンジしてみよう」と、左手の指で右腕を丁寧になぞり、感性を研ぎ澄ませて体の声を聴いた。

「そしたらね、この辺……」

 右ひじに近い部分のツボを指して言う。

「すごく硬くなっている筋が1本あった。これかなあと思って、マッサージしたら(中指が)痛くなくなった。指の筋肉も腕まで繋がっているから。こういうのは面白いですよ」

 精密検査をしたわけでもない。医学的な見地で、これが本当に正しい処置だったのかは分からない。ただ、他人任せにできる環境を自ら排除して、真剣に自分の体と向き合う姿勢は、今までの石川にはないものだった。

ゴルファーは、誰にも頼れない状況を受け入れる必要がある。

 ウィンダム選手権の会場で、石川の今季の活躍について「人間的に成長したことが大きいと思う。自立してきたというのもあるだろうし、大人になった」と話したのは米ツアーの先駆者である今田竜二だった。

 中学時代に海を渡った今田だが、自身はシード喪失から2年目のシーズンを終えようとしている。レギュラーツアーの出場機会を得ても、なかなか思うようなプレーができない。そんな自身の苦しみを増幅させる理由について「プロゴルファーはチームメイトがいない」ことを挙げた。

 ゴルファーは孤独だ。試合中、アドバイスを求められるのはキャディだけ。アドレスに入れば、頼れるのは自分しかいない。キャリアの行く末を決めるのも、選手自身。それぞれの置かれた立場や状況に心の底から共感し、助け合うことのできる戦友は本当にいるのだろうか。それぞれがいつも、ひとりで選択と決断を求められている。

 つまり、誰にも頼れない状況を受け入れなくてはいけないのが、ゴルファーなのだ。だからこそ彼らにとって、自立はコース内外において重要視される。

 16歳でプロになった石川の「独り立ち」は、いつも付きまとうべきテーマだった。類まれなタレント性によって、他の選手たちに比べて甘えが許されたり、決断を他人に委ねられたりする環境を享受してきたのは事実だ。「それは本当に君が決めたことか?」と、尋ねたくなる瞬間もたくさんあった。

 しかし間もなく23歳になろうとするいま、彼は孤独を恐れずにステップアップを図ろうとしている。それもまた、事実なのである。

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