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<女子柔道、暴力・パワハラ問題から1年> 溝口紀子 「柔道の男社会に対峙した個としての女性たち」 

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木村元彦

木村元彦Yukihiko Kimura

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photograph byAsami Enomoto

posted2014/03/10 11:00

<女子柔道、暴力・パワハラ問題から1年> 溝口紀子 「柔道の男社会に対峙した個としての女性たち」<Number Web> photograph by Asami Enomoto

内閣府が異例の勧告書を出すまでの経緯とは?

――上村会長は度重なる不祥事を前にして4月に一度辞意を表明するも、6月になると10月までは務めるというふうに方針を転換しました。これは9月に2020年の東京五輪開催が決まれば、来日させて擁護する演説をしてもらったビゼール(東京五輪を監督するIOC調整委員でもある)の後押しももらって、そのまま辞めずに居残るっていうシナリオができていたとも言われています。ところが、内閣府が全柔連に対して異例の勧告書を出して体制の再構築を求めた。それでついに上村会長は辞任をします。どのような動きがあったのでしょうか。「一般法人法に定められた職務上の義務に違反している疑いがある」という内閣府からの勧告が効いたわけですが。

「これは私が内閣府のカードを使いました。私が山口香さんと北田典子さんと一緒に片山さつき議員の所に行って陳情したのです。内閣府の公益認定等委員会で監督してほしいと、実際に現場で起きていること、調査したことをメディアには言えないことも含めて報告しました。その後も問題は表面化して来ました。福田二朗全柔連理事からわいせつ行為を受けた被害者の女性からSNSを経由して私のところに告発があったのです。

 そこで北田さんに相談すると彼女はすぐに被害者の女性から事情聴取をして全柔連の執行部に事件の概要を報告しました。組織が独自に調査をしてくれるのではないかという期待があったのです。しかし、全柔連からは『現在は余裕が無く、ハラスメント規定も明確でないので対応できない』という回答が戻って来ました。保身のための隠蔽です。それで自浄作用はないという考えに至ったのです。このままでは上村さんにフェードアウトされてまた表舞台に出られてしまう。元々、調査のために立ち上げられた第三者委員会に対する全柔連の動きっていうのは、もう隠れ蓑と言うかアリバイ作りと言うか『はい、聞きました』というだけでした」

アスリート議員だけでなく、あの女性議員も立ち上がった。

 全柔連が特例財団法人から公益財団法人に移行したため全柔連に対する監督官庁が文科省から内閣府に替わっていた。危機感を持っていた溝口は議員会館を回った。橋本聖子を筆頭に共感してくれた女性アスリート出身の議員は多くいたが、内閣府にものが言える立場の議員はいなかった。ふと地元である静岡選出で総務大臣政務官の任にあった片山さつきの名前を思い出した。ある日、たまたま磐田市に選挙応援に来ているという情報が入り、直談判すると片山は対応してくれた。

【次ページ】 「柔道の問題は今、どうなっているの。報告書ある?」

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