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楽天優勝の陰に個性的なドラフト戦略。
少ない補強費を“一極集中”で補え! 

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鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

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photograph byHideki Sugiyama

posted2013/09/30 10:30

楽天優勝の陰に個性的なドラフト戦略。少ない補強費を“一極集中”で補え!<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

プロ野球は選手と監督だけではできない。フロントのバックアップがあってこそ、チームが野球に集中することができるのだ。

過去9回のドラフトで、ほぼ全ての上位指名が投手。

 その結果が昨オフのアンドリュー・ジョーンズ、ケーシー・マギーという大物外国人補強だった。

 特にマギーは、あの巨人と争奪戦を繰り広げた末に、巨人入団がほぼ決まりかけていた間隙を縫って逆転獲得。結果的にこの二人の獲得がチームに化学反応を起こし、悲願の優勝への要因になったのは多くが指摘するところだ。

 このシブチン球団には、お金をかけないという方針とともに、もう一つ、この優勝の根幹を担った大きな編成方針の柱があったことも確かである。

 それは主軸投手の補強は、基本的にはドラフトで行なっていくということだ。

 楽天の過去のドラフトを振り返ってみると、それはひと目で分かる方針なのだ。

 球団創設1年目の2004年ドラフトでは、その年の最大の目玉だった明大の一場靖弘と即戦力候補と言われたNTT東日本・渡辺恒樹両投手を指名した。

 そこから昨年の森雄大、則本昂大両投手まで過去9回のドラフトで上位2人の指名選手('05~'07年は大学・社会人と高校生の分離ドラフトだったので各1位指名選手)計18人のうち、実に投手が17人で、唯一投手以外で指名したのが'09年の2位、関大一の西田哲朗内野手だけだ。

 その'09年も1巡目で地元・花巻東高の菊池雄星投手を指名し、クジで外れて戸村健次投手を獲得。菊池を獲得できて戸村が残っていれば、2位は当然、戸村になっていたのだろう。

長嶋茂雄が語った「4番打者の育成は運次第」の意味。

 これだけ上位指名を投手にフィーチャーしたドラフト戦略は、他の11球団を見回してみても皆無という徹底ぶりなのである。

 その結果、'06年の高校生ドラフト1位で獲得した田中が大黒柱に成長し、今年の投手陣を支えた則本('12年2位)、美馬学('10年2位)、戸村('09年1位)、長谷部康平('07年大学・社会人1位)ら上位指名選手が確実に戦力になってきている。そこに辛島航('08年6位)、青山浩二('05年大学・社会人3位)などドラフト下位組の選手もからんで優勝への原動力となる働きを見せた。

「自前の4番打者を作れるかどうかは運にかかる要素が大きい。それだけの素材というのは10年に一人巡り会えるかどうか。そういう意味で私は幸せでした」

 こう語っていたのは巨人の長嶋茂雄終身名誉監督だ。

 巨人の監督として「10年に一人の素材」である松井秀喜さんに巡り会って、二人三脚で巨人だけではなく球界の4番打者を育て上げられたからこその発言だった。

【次ページ】 補強費のないチームが採った、“一極集中主義”。

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