セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
ミラン次期トップは会長の娘か?
男勝りな“カルチョの女たち”の野心。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2013/08/12 10:30
「ミランを総合エンターテイメント・カンパニーにしたい」というバルバラ。現在はクラブの取締役として帝王学を学んでいる。
ミランを総合エンターテインメント・カンパニーにしたい。
ある報道番組のインタビュー中、「実娘バルバラを一言で言い表してほしい」と問われたベルルスコーニが、顔色を変え、言葉に詰まったことがある。うろたえた元首相は「あれは、“できる男”だ」と辛うじて応えた。
「政界には興味ないわ」と言い放つバルバラは、女性誌のインタビューで、すでに“彼女の”ミラン像をすでに脳裏に描いている。
「私はミランを総合エンターテインメント・カンパニーにしたい。まるで家族の一員のように、寝ても冷めても、ともに人生を歩みたくなるようなクラブにしたい。そのためにも、よりスポンサーを獲得しなければ」
1年半にも及んだFWパト(コリンチャンス)とのラブストーリーは成就しなかった。破局にもめげず、バルバラはまい進する。
そんなバルバラより一足先に会長として辣腕を振るう女性がいる。セリエB・ランチャーノのバレンティーナ・マイオだ。ミランの最高幹部より、現場に近い彼女の冒険劇は、よほど荒唐無稽の少女マンガでもここまでは設定できまいと思わせるほどの急展開だ。
夫は地元でゴールを決めるたびに、会長である妻の元へ。
わずか5年前まで、サッカーにまるで興味のなかったバレンティーナは、友人から偶然誘われた試合で、トゥルキというMFに一目惚れ。彼の追っかけを始めるうちにサッカーへとのめりこみ、お目当てだったトゥルキとの交際もスタートさせた。
地元の実業家だったマイオ家が破綻したクラブを買い取ると、大学でマーチャンダイジングを学んでいた当時25歳のバレンティーナへ白羽の矢が立った。
「交渉の席では、相手から1分ごとに“女にサッカーがわかるのか”って空気を感じてたわ」
屈託なく笑う彼女は、セリエB昇格を逃した一昨年、ベテランたちを一掃する大なたを振るった。若手を抜擢し2部へ見事昇格させたことで、サポーターからの支持も得た。「必要だと感じたら、ロッカールームへ乗り込んで選手たちを怒鳴りつけるわよ」と笑いながらすごむのが、気の強いイタリア女性らしい。
しかし、各々の役割には敬意をもって接する。多くの会長がやりたがるように、フォーメーションをああしろ、こうしろ、と口出しはしない。スタメン落ちした夫がベンチへ追いやられても、監督の判断を尊重する。
別チームでプレーしていた夫トゥルキを獲得したときにはさすがに公私混同、と批判もされた。だが、トゥルキは地元の試合でゴールを決めるたびに、スタンドへ一目散。会長であり妻であるバレンティーナの手の甲へ接吻するパフォーマンスで観客のハートもつかみ、ホームゲームでのお約束となった。
「“奥様は会長”さ」
苦笑いするトゥルキの隣で、白い歯を見せてチャーミングに笑うマイオ会長にも当然野心はある。
「いつかはセリエAに行きたい」