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ミラン次期トップは会長の娘か?
男勝りな“カルチョの女たち”の野心。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2013/08/12 10:30
「ミランを総合エンターテイメント・カンパニーにしたい」というバルバラ。現在はクラブの取締役として帝王学を学んでいる。
父親シルビオがミランを買収したとき、次女バルバラはまだ2歳にもなっていなかった。
2013年現在、29歳になった彼女はミランの最高経営会議メンバー中、唯一の女性ながら着々と帝王学を納めつつある。近い将来、ミラニスタたちは、女性会長を戴くことになるかもしれない。
シルビオ・ベルルスコーニが、元会長ジュゼッペ・ファリーナから破産寸前のミランを買収したのは1986年のことだった。その後、四半世紀以上にわたってミランの黄金時代を築き上げてきた政財界の怪物ベルルスコーニも76歳になり、かつての影響力は衰えてきた。
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大学で哲学を学んでいたバルバラは、2010年の卒業前に2人の息子をもうけ、前夫とは離婚。2年前にミランのフロントへ就職した。
他の家族同様、ミランの全株式を所有する持ち株会社「フィニンベスト」社最高役員にも名を連ねる彼女だが、オーナーの懐刀で欧州サッカー界きっての大物フィクサー、ガリアーニCEOから、クラブの経営手腕について、一から英才教育を受けている最中だ。
「入ったばかりの頃は、クラブの財務シートの見方すらわからなかった」と語るバルバラは現在、クラブの長期的なブランディング戦略室の長を務める。
“クラブ史上初の女性会長”の大きなメリット。
女性登用に積極的なミランでは、マーケティング・ディレクター職やスタジアム管理責任者など要職の一部をすでに女性が担っている。彼女たちは顧客層の圧倒的多数が男性であることを十分認識しながら、彼らが思いもかけないものをサッカーと結びつけ、冷静にビジネスチャンスへと変えていく。
彼女たちに言わせれば、夕食の買い物へ行く店が“スーパーマーケット・ミラン”で、病気や事故に遭う前に加入しておくのが“ミラン保険”であっても、何の不思議もないらしい。彼女たちは、男性が持ち得ない独自の感性をサッカー界に持ち込んでいるのだ。
次期会長候補として、やはり一族が経営するメディア・コングロマリット「メディアセット」副会長である長男ピエルシルビオを無視することは難しいが、クラブの対外アピールを考えたときに、すでにクラブの中枢にあるバルバラを表に立てて、“クラブ史上初の女性会長”を誕生させるメリットは大きいにちがいない。
「妥協するのはお断り。私は完璧主義者なの」、「父シルビオこそ、働く上で女性と男性を分け隔てせず、ビジネスパートナーとしてどう接するか教えてくれた人です」と言い放つバルバラは、自らが男勝りの野心家であることを隠さない。