MLB東奔西走BACK NUMBER
先発完投主義は高校野球が原点?
米国から届いた問題提起とは。
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph bySports Graphic Number
posted2013/08/02 10:31
スポーツ専門局ESPNの『Outside the Lines』の一場面。T.J.クイン記者が日本球界に投げかけた問題は、日米の野球に対する考え方の違いを改めて浮き彫りにした。
米国最大のスポーツ専門局ESPNに『Outside the Lines』という番組がある。この番組は米国内外のあらゆるスポーツの諸問題、諸現象を様々な角度から検証する社会派番組なのだが、今回は“Japan's Pitching Monsters”と題し、日本の高校野球を取り上げた。
レポートするのは、私がかつてメッツの番記者時代に親交のあったT.J.クイン氏。2000年のメッツ対カブスの日本開幕シリーズの際にも来日している記者だ。今回も日本で精力的な取材を行ない、渾身のレポートとなっていた。
レポートで取り上げられたのは済美高校の安楽智大投手。
今年春の選抜大会を5日間で4試合に先発し、1試合当たり平均135球投げたこと。さらに大会中9日間で計772球を投げた事実を紹介しながら、米国の有力代理人からの「高校生投手の場合、95球以上投げさせてはいけないし、中3日以上の間隔を開けるべきだ」という意見や、「772球は平均のメジャー投手が6週間で投げる球数だ」というデータなどを出し、比較している。
米国から、日本の高校野球への問題提起。
安楽のケースは決して特別なことではなく、日本の高校野球では繰り返されてきた歴史であるとしたうえで、安楽のほか、済美高校の上甲正典監督。さらには、1996年、智辯和歌山の2年生エースとして選抜大会で712球を投げ、その後、右肩を負傷した高塚信幸氏。そして昨年まで中日の投手コーチを務めていた権藤博氏にインタビューを行ない、日本の高校野球の現状を検証している。
そして、日本国内にも高校野球の現状について賛否両論があることを紹介し、クイン記者は肯定も否定もせずにレポートを終えている。
だが、メジャーがある米国で、日本の高校野球のあり方に関して、問題提起がなされたという事実は、重く受け止めるべきではないだろうか。