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セリーナに完敗でも、
伊達が前向きだった理由。
~ウィンブルドンで魅せた42歳の技~ 

text by

山口奈緒美

山口奈緒美Naomi Yamaguchi

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photograph byHiromasa Mano

posted2013/07/19 06:00

セリーナに完敗でも、伊達が前向きだった理由。~ウィンブルドンで魅せた42歳の技~<Number Web> photograph by Hiromasa Mano

 日没を見越して屋根が閉じられたウィンブルドンのセンターコート。クルム伊達公子とセリーナ・ウィリアムズの3回戦が始まったのは、日本時間の午前4時半頃だった。リアルタイムで観戦した人は多くなかったかもしれない。朝起きて知ったスコアが2-6、0-6、わずか1時間という試合時間では、伊達がその後に言った「今度はハードコートでやってみたい」という前向きな言葉の意味は理解できなかっただろう。しかし、あの1時間を見つめていた人ならわかるはずだ。

 パワーテニスの先駆者であり、31歳でなお世界1位の座を維持するセリーナがいきなりサービスエースを叩き込んで、試合は幕を開けた。相手サーブの読みがうまくリターンが得意な伊達も、「まったく読めなかった」と振り返る。結局奪われたサービスエースは8本。リターンエースも11本決められ、女王の驚異的な破壊力には脱帽だった。しかし、少しでも甘くなったサーブには確実に対応し、ラリーに持ち込めば伊達の支配の中でポイントを得ることも少なくなかった。

ネット際での駆け引きに多彩な技……ファンは伊達に拍手を送った。

 リスクを負った展開が必至だったから、ミスが増えたのはしかたがない。1-5とリードを広げられたあと、伊達が初めてブレークに成功するとスタンドはウェーブで盛り上げたが、第2セットはブレークポイントどころかゲームポイントが握れない。最後のサービスゲームで一つマッチポイントをしのいで2度のデュースに持ち込むのがやっとだった。

 終盤、もう誰も伊達が逆転できるとは思っていなかった。それでもなお、伊達がポイントを取ると割れんばかりの拍手が沸き起こる。

「温かさを感じましたね。もっと試合を楽しみたいという気持ちがあったんだと思いますけど、そこへ42歳が3回戦まできたということで応援してくれたのかな」と笑ったが、決して同情の声援ではなかった。今では女子にほとんど見られないサーブ・アンド・ボレー、ネットに出る駆け引き、スライスやドロップショットなど多彩な技……圧倒的なパワーに対し、緻密な戦術で立ち向かう42歳のテニスに寄せた敬意だった。

「やっぱりウィンブルドンにはテニスをよく知った人たちが来ているんだと思いました」。表情にはその中でプレーできた幸せが見てとれた。

【次ページ】 ハードコートシーズンを戦う明確な理由を見出した。

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