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薬物疑惑のクレメンスに
米国民が怒る本当の理由。
~MLBステロイド禍は収束せず~ 

text by

四竈衛

四竈衛Mamoru Shikama

PROFILE

photograph byYukihito Taguchi

posted2010/09/04 08:00

罪状すべてが有罪となった場合、禁固30年と150万ドルの罰金を科せられる可能性がある

罪状すべてが有罪となった場合、禁固30年と150万ドルの罰金を科せられる可能性がある

「かつてのチームメイトですし、事実だとすれば残念ですね……」

 サイ・ヤング賞7回の実績を持つロジャー・クレメンスが起訴された一報を伝え聞いたエンゼルスの松井秀喜は、ロッカールームでポツリと言った。クレメンスは禁止薬物使用に関して'08年2月に行なわれた米下院の公聴会で偽証したとして、米連邦大陪審から起訴された。今回の争点は、ステロイドやヒト成長ホルモンなどを使用したかどうかではなく、偽証したか否か。米国民がクレメンスを「LIAR(うそつき)」と呼ぶのは、限りなく黒に近い灰色にもかかわらず、一向に疑惑を認めない態度に原因がある。

 '90年代後半以降、ステロイド禍は瞬く間にメジャー球界にまん延した。オフの間に筋肉の鎧を身に付け、アメフト選手のように首回りの太い選手が増加した。前のシーズンとは別人のように打球を飛ばし、5マイル以上も球速がアップする投手が、各チームに確実に数人はいた。そんな彼らは試合後、必ずと言っていいほど腰やヒザをアイシングしていた。急激な筋肉増加に関節が耐えきれず、炎症を起こすためである。口にこそ出さなくても、同じクラブハウスにいる他の選手達が、ステロイド服用者を判別することは、実は簡単だった。

クレメンスは裁判で徹底的に争うことを表明。

 '07年12月、薬物使用の実態を調査した「ミッチェル・リポート」が公表され、89人の名前が明らかになった。そのリストに含まれていたクレメンスが、直後に使用を認めていれば、ここまで騒動は広がらなかったに違いない。実際、ジェイソン・ジアンビ、アンディ・ペティット、ミゲル・テハダらは、使用歴を明らかにし、ファンに対して謝罪。「みそぎ」を終えて、グラウンドへ復帰した。薬物に限らず、一度失敗しても「セカンド・チャンス」を与えることに寛大な米国民にとって、クレメンスの姿勢は今や許し難いものとなっている。

 今後、クレメンスは裁判で徹底的に争うことを明らかにしているが、結果にかかわらず、球界内では殿堂入りを否定する声が圧倒的である。現在、係争中のバリー・ボンズにしても、厳しい世論は変わらない。ファンが求めているのは、自らの口で真実を明らかにすること以外にない。「残念」とこぼした松井も、おそらく同じ気持ちだったに違いない。

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