たび重なるオフサイドが試合の空気を変えていく。

　30分が過ぎたころ。ボールがラインを割った際、DFリーダーのフンメルスがギュンドガンを呼び寄せる。両手を使って、ギュンドガンに前にプッシュするようなジェスチャーをする。

　これがきっかけになったということだろうか。ここからドルトムントはオフサイドをとる回数が一気に増えた。イグアインが、ロナウドが、線審のあげた旗を見て、顔をしかめる場面が頻繁にみられるようになったのだ。

　中盤から前の選手が、しっかりと相手のボールホルダーにプレッシャーをかけにいく。ボールを奪いにいくことが主目的ではなく、相手のプレーの選択肢を狭めることが第一だ。それに合わせて、DF陣はラインを上げる。こうしてオフサイドトラップは成功する。オフサイドがとれなくても、こうした守備を続けていけば相手は次第に攻撃の自由を失っていく。

　これまでの試合では1試合あたり2.9回のオフサイドを記録していただけだったレアルは、この試合の前半だけで5回もオフサイドを宣告されてしまう。

　オフサイドになれば、プレーは止まる。ドルトムントが間接FKを蹴るまで、試合は再開しない。スタジアムが一体になって張り詰めていた空気は、こうした中断を経て、薄まっていく。そして、序盤からの猛攻の反動もあって、レアルの攻撃のペースは落ちていった。

　あれだけのチャンスがありながら、0－0のまま前半は終わった。

カカとベンゼマを投入し、攻撃的布陣でゴールを狙うレアル。

「もしも、もっと早くにゴールを決めていれば、我々にはさらなるチャンスがこぼれてきただろう。しかし、サッカーとは点を決めるスポーツなのだ」

　試合後のモウリーニョ監督のコメントからは無念さがにじみ出ていた。

　後半に入ると、どちらも同じようなペースでチャンスを作っていく。

　先に動いたのは、3点差をつけられているレアルの方だ。後半12分にカカとベンゼマを投入。最終ラインは3枚にして、右サイドの高い位置にエジルを、左の高い位置にディマリアを張らせ、中央にはロナウドとベンゼマ。3-3-4とでも言うべき、大胆な攻撃的布陣でゴールを狙いに行った。

　もっとも、すぐに機能したわけではない。逆に、手薄になった守備をつかれ、たびたびドルトムントにチャンスを与えてしまう。

　後半17分には、ゴール前で完全にフリーとなっていたギュンドガンにシュートを許す。しかし、これはGKロペスがブロック。その1分後のレバンドフスキのヘディングも、ゴール左に外れていった。

「もしも我々が1点でも決めていれば、早々に試合は決まっていたはずだ」

　試合後にクロップ監督はそう述べているが、実際は、思い通りに試合が進むことはなかった。

【次ページ】　後半38分、ついにこの日初めてのゴールが生まれる。