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“本家”二天一流の達人に聞く――。
大谷翔平、二刀流成功の極意とは? 

text by

村瀬秀信

村瀬秀信Hidenobu Murase

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photograph byHideki Sugiyama

posted2013/04/23 10:30

“本家”二天一流の達人に聞く――。大谷翔平、二刀流成功の極意とは?<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

4月22日現在、大谷は一軍8試合に打者として出場。18打数5安打、打率.278という数字を残している。

腰に差した“才能”を眠らせたままにしないために。

 つまり二刀は一刀をも包含するという意であり、二刀を極めれば、一刀を極められるということ。その極意は『バガボンド』的に言えば「ぬたあん」(物事に囚われなくなった覚醒状態で剣を振る擬音)ってやつであり、そして強引に野球に置き換えれば、投手・野手という概念に囚われず、両方の鍛錬を積めば、ある時は先発、打順が回ってくれば打者、ピンチの場面でリリーフ、守備固めに代走、バント要員から野次要員までと……戦場の様々な状況に応じ自在な戦い方ができる選手になれるということか。

 そして腰に差したままの“才能”、例えるなら桑田のバッティング、イチローのピッチングなどの才覚を眠らせたままにすることなく、すべてを使い切るという境地。

 なんともロマン溢れる存在である。が、プロ野球界では過去、どんなに才気に溢れる選手とて、投・打の道一本にその野球人生すべてを捧げても道を究めることは至難であった。それを投打ともに、達人のレベルに持って行くには……やはり多くの人たちが言うように、野球に置き換えるのは無理があるように感じてしまう。

 しかし、剣術の世界においても、一刀よりも二刀の習得の方が難しいとされており、その修業には様々な困難が付いて回るという。果たして達人たちはそれをどのように克服してきたのか。そのことに二刀流成功へのヒントがあるようで興味が尽きない。

かつて“邪道の剣”として蔑まれてきた二刀流。

「技術的な面では二刀は独特の竹刀操法があり練習量も増えます。体力的にもスタミナが必要になり不慣れなことで怪我をしたりと壮絶な修業になりますが、そんなことは毎日稽古して正しい方法に慣れてくれば問題ありません。

 それ以上に困難を極めるのが精神面です。二刀を志した人はこの壁が原因で、強くなる以前、1年も経たずに全員が辞めたくなるんです。なぜか。技術的に思うようにできない。二刀での力が付く前に一刀では勝っていた格下の相手と戦い負けてしまう。

 そして周囲の環境です。今でこそ理解されるようになりましたが、少し前までは“二刀流”といえば『右でなければ左を使い、左がだめならまた右を使う』というような二股をかけて戦う剣法のように捉えられていました。二刀流は剣道本来の理念に合わない“邪道の剣”として、これを顧みようとしない人たちが剣道の専門家の中にも大勢存在し、それ故に二刀を志した人は、そのほとんどが『一刀も満足に使えないのに、二刀なんてとんでもない』という反対を周囲から受けていました。それは素質に恵まれた剣士であればあるほど、周りの先生たちは真剣にその人のことを思い反対してくださったのです。

 それでも尚、反対を押し切って稽古を進めれば敬愛する師から『もう稽古はできない』と見放されたり『二刀のうちは試合に出さない』と干されたこともあります。『二刀なんて生意気だ』と稽古で防具のない場所を突きまくられるなどのシゴキを受けたことも、かつて当会の会員の多くが経験してきました」

「二刀の修練を決心したら、常に二刀をとり続ける強い意志が必要」

「そういう壁を前にすれば、『そこまでして二刀でなくてもいいんじゃないか』と思うのは必定。ですが、そこで怯むことなく壁を乗り越えた時、その強さであり、二刀と一刀の両方を使える新しい理が見えてきます。故に二刀の修練を決心したら、いつでも、どこでも、誰が相手でも、常に二刀をとり続ける強い意志が必要です。

 最初はどんな人でも必ず失敗し、混乱します。結果が出ず修練がどんなに苦しく辛くとも、いつかは必ず二刀と一刀という垣根を越え、自身の技術の向上につながるものだという確固たる信念を持ち続け、焦らず、決してあきらめず、自分自身を信じて稽古に励むことが大事なのです。剣道の世界でさえ、この二刀の修業は続けること自体に大変な難しさが伴うイバラの道。ですが、剣道にはその道を通ってきた先人がいるので、技術面・精神面で乗り越えるアドバイスができますが、野球の場合はそれがいないわけですから、尚のこと厳しい道となるでしょうね」

【次ページ】 「武蔵的なことを誰かが成し遂げなければならない」

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