MLB東奔西走BACK NUMBER

追悼「神の声」&「The Boss」。
MLBで燦然と輝いてきた2つの巨星。 

text by

菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

PROFILE

photograph byGetty Images

posted2010/07/25 08:00

追悼「神の声」&「The Boss」。MLBで燦然と輝いてきた2つの巨星。<Number Web> photograph by Getty Images

2008年9月21日、旧ヤンキースタジアムでの最後の試合では、シェパード氏がビデオ形式で満員の観客に向けて球場への思いをつづった詩を朗読した

 先だってヤンキースの「顔」が相次いでこの世を去った。

 1951年から2007年までヤンキー・スタジアムの場内アナウンスを務めたボブ・シェパード氏と、1973年からオーナーとして君臨してきたジョージ・スタインブレナー氏だ。

 個人的にはちょうど時を同じくして開催されていたオールスター・ゲーム以上に大きなニュースだった。

 シェパードは“The Voice of God”、スタインブレナーは“The Boss”という愛称でファンに親しまれた存在だが、私が長年MLBを取材してきた中でもこれほど傑出した場内アナウンサーとオーナーは存在しなかったし、今後も現れないだろうと思っている。

シェパードのお気に入りだった「シゲトシ・ハセガワ」。

 1997年から数年間ヤンキースを取材したのだが、改めて両氏について思い返すと2人の日本人選手との関係を忘れることができない。

 まずシェパード氏だが、私が取材していた当時から伝説的な場内アナウンサーだったのはいうまでもない。

 “Good afternoon, ladies and gentlemen, and welcome to Yankee Stadium.”

 このお決まりの台詞で始まる抑揚の少ない静かな口調の場内アナウンスに、私もすっかり魅了されてしまった。ヤンキースの選手ばかりか敵チームの選手たちも、シェパードにアナウンスしてもらうことに感動を憶える選手が多かった。

 そんなシェパードのお気に入り選手リストが当時のメディアガイドに掲載されていたのだが、ミッキー・マントルに続き、堂々の第2位にランクしていた選手がなんと長谷川滋利だったのだ。

 元々シェパードのお気に入りリストには、ラテン系選手の名前が多く入っており、スペイン語の流れるような発音が好きだったのだろう。そういった意味では他の日本人選手が選ばれてもよさそうなのだが、なぜか日本人選手は長谷川ただ1人だった。

 当時日本のテレビ局もインタビューをしていたと記憶しているが、シェパードには「シゲトシ・ハセガワ」という発音は音楽を奏でるように心地よく響いたのだという。だが、実際にヤンキー・スタジアムでシェパードが長谷川の登場を告げるアナウンスを直に聞くことは叶わなかった。

【次ページ】 伊良部を「太ったヒキガエル」と貶した豪腕オーナー。

1 2 3 NEXT

MLBの前後の記事

ページトップ