ブンデスリーガ蹴球白書BACK NUMBER
なぜグアルディオラを選んだのか?
バイエルンが求める“革新”と“安定”。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byREUTERS/AFLO
posted2013/04/20 08:01
今年1月、FIFAバロンドールの表彰式でのグアルディオラ。運命のいたずらか、今年のCL準決勝では古巣バルセロナと来季から率いるバイエルンが激突することとなった。
ファン・ハールは若手の登用にもその才能を発揮。
もう一つ挙げなければいけない功績が、若手の登用だ。オランダ人指揮官によってユースから引き上げられた2人はいまやドイツ代表だ。
まずは、ミュラー。ファン・ハール就任以前にトップチームでプレーした経験はあったが、あくまで期待の若手の1人に過ぎなかった。だがファン・ハールはミュラーを重用する。「どんな布陣で戦おうとも、そこにミュラーの名前が必要だ」と語ったほどだ。ファン・ハールが就任1年目にレギュラーに抜擢したミュラーは、シーズン直後の南アフリカW杯で得点王になった。
もう一人が、バドシュトゥバー。就任直後、ディフェンダーとしては別格に優れている足元の技術に注目して、トップチームに抜擢。リーグ戦34試合のうち33試合で起用した。現在は負傷離脱中だが、本来は不動のレギュラーである。もしも、オランダ人指揮官がやってこなければ、彼が陽の目を見るのはもう少し先になっていたに違いない。
また、'09-'10シーズンにはレバークーゼンにレンタル移籍中だったクロースを復帰させた。バイエルン関係者の中には翌シーズンもレバークーゼンに残してもよいと考えた者もいたようだが、ファン・ハールは復帰を強く主張した。もしもクロースがライバルクラブに残っていれば、バイエルンとクロースの未来は違ったものになっていたはずだ。
だが、ファン・ハールにはチームを安定して勝利に導く力が欠けていた。だからこそバイエルンにはハインケスが必要だった。
“革新”と“安定”の両面を併せ持つペップ。
グアルディオラはバルセロナで、チームに継続的に力を発揮させ、同時に積極的に若手を起用してチーム力を大きく引き上げる手腕があることを証明した。ファン・ハールの“革新”とハインケスの“安定”。グアルディオラは1人でそれをやってのける。だからバイエルン関係者は胸を躍らせるのだ。
現在のバルセロナの主力であるイニエスタなどは、ファン・ハールがバルセロナの監督をしていた時代にトップチームに引き上げた選手だ。そしてグアルディオラ監督のもとで才能を存分に発揮した。同じことをペップならバイエルンでもなしとげてくれるはずだと関係者は信じている。
ルンメニゲ社長は、こんなエピソードを明かしている。
「ペップはすでに、我々の育成年代の選手たちのことを知っている。たとえば、バイラウフやホイビェルクなどについては特にね。(下部組織のチームの試合は)すべて映像におさめてあるのだが、それらをペップはチェックしている」
バイエルンに第二のブスケッツやペドロが生まれたとしても、なんら不思議ではない。若手の台頭はバイエルン関係者にとって悲願でもある。ヒッツフェルト監督時代にユース出身のDFフンメルスをドルトムントへ放出(最初はレンタル移籍だった)してしまったトラウマがあるからだ。後に、買い戻そうとしたが、本人に断られた。同じ過ちは繰り返したくないと考えている。
現在、3冠への道をつきすすむ史上最強のバイエルン。そこにグアルディオラがやってくる。来季、タイトルをひとつでも減らせば監督就任は「失敗」だったと言われるだろう。グアルディオラにはそうしたプレッシャーもあるのではないか。記者からそう問われたヘーネス会長はそんな考え方を真っ向から否定した。
「それは違うね! このタイミングでバイエルンにやってくるペップはとても幸運なのだよ」