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歴史に残る“栄誉ある”敗北――。
ドネアに完敗した西岡利晃の偉業。  

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byREUTERS/AFLO

posted2012/10/15 11:20

歴史に残る“栄誉ある”敗北――。ドネアに完敗した西岡利晃の偉業。 <Number Web> photograph by REUTERS/AFLO

「やるだけのことはやった。でも今は悔しいだけ」と試合後に語った西岡。今後について本人は「まだ分からない」とコメントしたが、帝拳ジムの本田明彦会長は「勝っても(現役は)終わりのはずだった。本人も納得していると思う」と引退を示唆した。

 スーパーバンタム級の真の強者を決める最高峰の戦い─―。

 日本時間10月14日、米国カリフォルニア州カーソンで、日本ボクシング史に残る最高級の舞台に上がったWBC名誉王者の西岡利晃(36歳/帝拳)は、4階級制覇のWBO・IBF王者ノニト・ドネア(29歳/フィリピン)に9回1分54秒TKO負けを喫した。

 ドネアの瞬発力、反応の速さは西岡を陵駕し、“スピードキング”の異名を持つ日本人サウスポーにボクシングをさせなかった。だからといって今回の試合内容がそのまま圧倒的な実力差を反映したのかといえば、少し反論したい気持ちになる。

 ワンサイドに見えた試合の中にも、勝負のあやは確かにあった。

“スピードキング”を上回った“フィリピーノ・フラッシュ”の速さ。

 スタートの西岡はほとんど手を出さず、ドネアのパンチを食らわないようにブロッキング重視の戦いを選択した。

 ドネアのスピードやパンチの軌道をしっかり確認し、リスクを犯さず、後半への布石を打つ。会場からブーイングが沸き起こっても、まったく動じなかったのは、それが戦前から描いていた作戦だったからだろう。

 この状態から徐々に抜け出していこうというのが西岡の狙いだったが、逆に抜け出したのはドネアだった。

 西岡は“フィリピーノ・フラッシュ(フィリピンの閃光)”の予想以上のスピードと、隙を見せない細心のボクシングを前に、仕掛けのタイミングを逃してしまったのだ。

 元WBAスーパーフライ級王者・飯田覚士氏は次のように解説する。

「西岡選手はドネアの左フックを警戒して、少し後ろ体重で右ガードを高く掲げていた。これはいいとしても、左のガードもかなり高く上げていた。あれだと相手は怖くないんです。少し下げて、パンチを出しやすい状態にしておくと、相手は『いつ左が飛んでくるか分からない』という恐怖感を持ちます」

 自分の左は警戒されている。そう戦前から考えていたドネアは、序盤は左フックを打つと見せかけ、ジャブのようなシャープな右を盛んに使った。その結果、西岡は右手だけでなく、相手の右を防御するために左手まで顔にぴたりと張り付けることになった。こうなると怖さが半減するというわけだ。

【次ページ】 勝負の分かれ目だった4、5回に、何があったのか?

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