オフサイド・トリップBACK NUMBER
ファーガソンが目論む戦術革命。
香川真司を軸にマンUが変貌する!?
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byAFLO
posted2012/08/27 18:45
初ゴール後の記者会見で、これからの課題を問われた香川。「もっと中央でボールを受けられるようにしたい。(中略)(プレミアでの活躍は)絶対にできる、という自信がある」
ライバルのマンCが持つアドバンテージとは?
これと対照的なのがライバルのマンCである。
昨シーズンのマンCは4-2-3-1をベースにしていたが、マンUよりもはるかに多くの選択肢を持っていた。
たとえばチャンスメイカーでいえば、サミル・ナスリとダビド・シルバだけでなく、“トップ下の位置で、体を使ったポストプレーから得点機を作る”こともできるヤヤ・トゥーレを選ぶことも可能だった。またサイドから崩す際にも、マンUのアプローチとは明らかな違いが見られた。サンディ・ミラーの記者、サイモン・マロックは次のように指摘する。
「ファーガソンは『確率論的なサッカー』を好む。ウイングがサイドを突破してペナルティエリアの中に折り返せば、10回中1回か2回はいい形でシュートにまで持ち込めるチャンスになるのではないかという考え方だ。
だがマンチーニは違う。彼は慎重な考え方をするイタリア人であるが故に確率論というギャンブルを好まない。もちろんマンCの選手もクロスは入れるが、むしろサイドに開いたときでもなるべくパスをつなぎ、最終的にマイナスの折り返しやフリーになる人間を作り、シュートに持ち込む形を目指してきた」
“キープレイヤーがダビド・シルバ”とはどういう意味か。
ただし攻撃にバリエーションを加えるという意味では、やはり大きいのはシルバの存在だ。
シルバは4-2-3-1の「3」の右で起用されることが多いが、試合開始と同時にボックスの周辺をひたすら自由に動き回り続ける。中盤にもごく普通に顔を出すし、セルヒオ・アグエロやエディン・ジェコといった、自分よりはるかにCFらしい選手が最前線で起用されていても、遠慮なく最前線に張ることもある。
このスタイルは、対戦相手の側にしてみると相当厄介だ。
マークはことごとく狂うし、シルバは味方とパス交換をしながら、ディフェンダーのすぐそばや狭いスペースでも平気でボールをもらおうとする。シルバをつぶしにいけば他の場所にスペースができてしまうし、かといって放置しておけば、今度は自分でドリブル突破していったり、ワンツーからシュートを狙われたりしてしまう。
シルバがマンCの攻撃陣の中で一番重要な役割を担っていることは、昨シーズンのマンCvs.エバートン戦を見ても明らかだ。エバートンのデイビッド・モイーズ監督は、先日のマンU戦でこそ攻勢に出たが、基本的には慎重な戦い方を好むし、最も危険な選手にマンマークをつけるのも厭わない。そのモイーズが昨シーズンのマンC戦で執拗にマンマークさせた選手こそシルバだった。
最近ではプレミアも戦術のレベルが向上。どのチームも組織的な守備をするようになったため、古典的な「10番」や「トップ下」では相手を崩し難くなってきた。これを解消する手段の一つが、シルバのようなタイプを起用することだ、モイーズは、シルバこそがマンC攻撃陣のキーマンであることを間接的に示したとも言える。