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戦力を最大化するリーダーの資質は?
NBAの名将も成果をあげた実践理論。 

text by

葛山智子

葛山智子Tomoko Katsurayama

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photograph byNBAE/Getty Images

posted2012/07/31 10:30

戦力を最大化するリーダーの資質は?NBAの名将も成果をあげた実践理論。<Number Web> photograph by NBAE/Getty Images

シャキール・オニールに指示を与えるレイカーズのヘッドコーチ、フィル・ジャクソン。ジャクソン在任中の1999年~2011年にレイカーズはNBAの歴代優勝回数2位を達成 し、黄金時代を築いた。

「強みの認識」と「リ・フレーミング」の実践。

 ここまで、ジャクソンのリーダーシップの代表的な2つのエピソードに触れてきたが、実はこれはポジティブリーダーシップとしてよく語られる「強みの認識」と「リ・フレーミング(視点をかえる)」に当てはまる。

 リ・フレーミングの考え方を身近な例えでわかり易く言えば、ボトルに半分飲み物が残っているときに、「もう半分しかない」と思うか、「まだ半分もある」と思うか、というものである。どちらでとらえるかで大きく結果がちがう。

 かのピーター・ドラッカーも、「成果をあげるエグゼクティブは、人間の強みを生かす。彼らは弱みを中心に据えてはならないことを知っている」と強みの認識の効果について語っている(『経営者の条件』)。

 また、「最大のピンチは最高のチャンス」と、リ・フレーミングして逆境から未来を切り開いていくリーダーが多くいることからもわかるように、リ・フレーミングもリーダーシップの発揮には重要であることがわかる。

スティーブ・ジョブズも稲盛和夫もリ・フレーミングを駆使。

 昨年この世を去ったアップルのスティーブ・ジョブズはこのように言う。「当時は分からなかったが、アップル社に解雇されたことは(彼は、1985年に一度アップルから解雇されている)、私の人生で起こった最良の出来事だったと後に分かった。成功者であることの重さが、再び創始者になることの身軽さに置き換わったのだ。何事につけても不確かさは増したが、私は解放され、人生の中で最も創造的な時期を迎えた」。

「Think different」というキャンペーンスローガンにも見られるように、まさにジョブズ自身も視点の転換で成功している。

 そして日本航空再建の立役者である稲盛和夫も、「世の中に失敗というものはない。チャレンジしているうちは失敗はない。あきらめた時が失敗である」と、失敗の定義の視点を変えることで、一代で京セラを売り上げ高1兆円を超える規模にまで成長させ、日本航空の立て直しにも成功している。

注目を集めるポジティブ心理学。

 この、強みの認識とリ・フレーミングは、組織・チームのリーダーシップの発揮にも役立つものであるが、それだけでなく、自分自身のパフォーマンスを上げるためにも役立つ。自分自身の操縦法として、自身の強みを見極め(強みの認識)、直面している困難な状況を様々な視点でとらえ、自分自身にとって最も適した視点を選ぶことで自分にとってよい意味づけをする(リ・フレーミング)。そうすることで、困難に直面しても竹のようにしなやかに戻ってくることのできる力(レジリエンスという)を高めることができるのではないだろうか。

 今回ご紹介しているリーダーシップ論は、ポジティブ心理学という領域で研究が進んでいる内容がベースになっているものである。比較的新しい学問領域なので、耳慣れない読者もいるかもしれないが、自分の最高の能力を発揮するために必要なことはなにかを研究する分野である。

 グローバル人材や次世代リーダーにとって必要な要件の1つに、逆境にどう立ち向かうかということが含まれるため、ハーバード・ビジネススクールの機関誌でも紹介されるほど、ビジネスの分野でも注目されているものである。

 読者も、フィル・ジャクソンに見るリーダーシップを、組織の中のリーダーシップにはもちろんのこと、読者自身のビジネスパフォーマンス向上にも役立ててほしい。

今回のポイント

◆メンバーとの関係性構築にあたり、否定ではなく肯定することから始めているか

◆リーダーシップを取る際に、メンバーの強みを認識しているか

◆1つの偏った視点から物事を見るだけではなく、複数の視点から見ることを心がけているか

◆事象を最も意味のある角度からとらえ、困難から再起しようとしているか

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