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一か八かの“秘策”に賭けた可夢偉。
「F1て、こんなに壊れますか?」 

text by

西山平夫

西山平夫Hirao Nishiyama

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photograph byHiroshi Kaneko

posted2010/05/22 08:00

一か八かの“秘策”に賭けた可夢偉。「F1て、こんなに壊れますか?」<Number Web> photograph by Hiroshi Kaneko

無念のリタイヤでコースマーシャルに運ばれていく可夢偉。資金面で苦戦しているチーム内では不協和音も聞こえてきており、完走さえできないマシンに可夢偉も苛立ちがつのるばかりだ

ミディアム・タイヤでスタートする奇策で死中に活を。

 こうして“スペシャル”は霧散したが、ところがどっこい、そんなことでは可夢偉はあきらめなかった。

 予選終了後、チームとの長いミーティングで“スペシャル第2弾”ともいうべき次善の策を提案、チームもこれを了承する。

 それは決勝のスターティング・グリッドでタイヤウォーマーが外された時に明らかになった。なんと可夢偉だけがミディアム・タイヤを履いているではないか! タイヤ交換を最後まで待ち、残り30周を切る辺りからスーパーソフトへの交換のタイミングを見つけ、死中に活を見出そうという戦法である。

 この可夢偉のスペシャル戦法は見事に当った。スタートから23周、上位陣では最後の最後に首位ウェバーがピットインしてコースに戻った時、可夢偉はクビサの後ろ、マッサの前の5位に浮上していた。むろん前も後ろもタイヤ交換した連中ばかりだから、ピットインしたとたん可夢偉のポジションが落ちることは目に見えている。しかし可夢偉の履くミディアムはまだタイムの上がり代がある! レース後可夢偉は「あの時点でポイント獲得は確実やった」と言っている。そこまで賭けは当っていたのだ。

“可夢偉スペシャル”のタイヤ作戦でアロンソは6位入賞。

 だが、好事魔多し。

 25周目にあっさりとマッサに抜かれ、27周目にはついに可夢偉はピット前に戻って来なかった。ギアボックスのトラブルで3速に入ったままどこにもシフトできなくなり、カジノスクエアにマシンを止めたからだった。

 こうして可夢偉のモナコF1GP初挑戦は終わったが、手持ちの駒でなんとかポイントを取ろうという意欲と工夫はしっかり見て取れた。可夢偉のスペシャル策はどのチームも考える“一手”ではあろう。しかしそれを実行するには勇気と自信が要る。後で挽回できる勘定とはいえみすみすポジションを棒に振っての早期ピットインにはどんなドライバーでもためらいが出るものだし、硬いタイヤでのスタートはグリップ確保の点で相当の不安が生ずる。それでもなおハイリスク・ハイリターンに賭けようとした可夢偉の姿勢やよし。

 ちなみにクラッシュで予選不参加となったアロンソはペナルティでピットスタートとなったが、1周目にピットイン。スーパーソフトからミディアムに履き換え、そのまま6位でフィニッシュしている(セーフティーカー出動中のレース最終周にアロンソを抜いて6位となったシューマッハーはペナルティで12位降格となっている)。可夢偉のオリジナル・プランが大正解だったことの証明をしてくれたようなものだ。

度重なるマシントラブルに泣かされる可夢偉の悲運。

 それにしても今年のザウバーはあまりに壊れ過ぎる。レース後、可夢偉はあきれたようにこう言っている。

「F1て、こんなに壊れますか?」

 ちなみにチームメイトのデ・ラ・ロサもほぼ同じ頃にマシントラブルでリタイアしている。

 次戦トルコでは、奇策を採らずとも真っ向勝負でポイントを獲れるマシンを可夢偉に用意してあげて欲しいものである。トルコの翌戦カナダGPのタイヤ供給はモナコと同じスーパーソフトとミディアムの組み合わせ。可夢偉の“スペシャル策”を、もう一度見たい気もする。

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小林可夢偉
BMWザウバー

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