Jリーグ観察記BACK NUMBER
原口元気の問題は他人事ではない!?
Jリーグが取り組むべきメンタルケア。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byToshiya Kondo
posted2012/02/14 10:31
浦和レッズのユース出身の原口は、2月5日に行われたファン感謝イベントで「自分の幼稚な行動で去年はたくさんの人に迷惑をかけてしまって、本当に申し訳ありませんでした」と、事件について謝罪した
先日、日本サッカー協会の元会長である犬飼基昭氏を取材したとき、こんなことを嘆いていた。昨年12月に浦和レッズの原口元気がチームメイトの岡本拓也と喧嘩になり、左肩を脱臼させてしまった件についてだ。
犬飼元会長は言った。
「クラブは原口元気のような若い選手のメンタルケアを、きちんとしなければダメだ。あの歳で代表になって、まだ調子の波が大きいわけですよ。プレーがうまくいかないと、精神的に追い込まれる。なのに喧嘩をしてしまったときに、『あいつが悪い』とクラブが声をそろえて非難するのはおかしい。普段のメンタルケアもしないで、何か落ち度があったらみんなで叩くなんて日本社会の悪い部分を象徴している。浦和レッズでも何でもない」
メンタルケアの重要性を犬飼元会長は指摘する。
犬飼元会長は2002年から2006年まで浦和の社長を務め、Jリーグを代表するビッグクラブへと育て上げた功労者だ。まだ小6だった原口を「絶対に取れ」とスタッフに告げ、ジュニアユース入団を実現させたのも犬飼だった。それだけ古巣が将来を担うタレントのケアを怠っていたことが、残念で仕方ないのだろう。
犬飼元会長はこう続けた。
「ヨーロッパでは、クラブでも代表でも、メンタルケアの専門家を置いている。代表にもいるしね。選手出身の人間が一生懸命勉強して、メンタルケアの資格を取っているんだ」
ひとつ浦和を擁護するとすれば、犬飼元会長がこういう考えを持つに至ったのは、日本サッカー協会の会長としてヨーロッパを視察したからであり、心理面のサポートにまで手が回っていなかったのは同情できる部分がある。だが、犬飼元会長の指摘は、問題の本質を突いていることは間違いない。
選手出身のメンタルトレーナーを置く欧州のクラブ。
ヨーロッパではプロ選手経験のある人間が、メンタルトレーナーになる例がよく見られる。
たとえばバイエルン・ミュンヘンでメンタルトレーナーを務めるフィリップ・ラウックスは、もともとブンデスリーガで活躍したGKだ。
正GKとしてウルムの2部昇格に貢献し、さらに翌シーズンに1部へ奇跡のステップアップ。その後はドルトムントでもプレーした。引退するとマンハイム大学で心理学を専攻し、ドイツU20やホッフェンハイムでGKコーチを務めながら卒業。2008年にユルゲン・クリンスマンがバイエルンの監督に就任したときに、メンタルトレーナーに抜擢された。すでにクリンスマンはバイエルンを去ったが、現在もユップ・ハインケス監督の下でストレス克服や集中力アップなど選手のメンタル面をサポートしている。