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793号 掲載記事

野村祐輔(明治大学4年) 「真摯で、おそろしく貪欲な若者、登場!」

 善波達也監督の体が宙を舞う。1回、2回、3回……。明治大学は、東京六大学野球秋季リーグ戦の覇者として明治神宮野球大会に出場し、愛知学院大学を2対0で破り大会最多5回目の優勝を決めた。その優勝の原動力となった野村祐輔は、歓喜の胴上げの輪の一番外に立ち、嬉しそうにその光景を眺めていた。謙虚で思慮深い野村には、おそらくそこが一番彼らしく居られる場所なのだろう。いや、彼はこの試合のマウンドで、もうすでに投手としての喜びと快感を独り占めしていたのだ。

すべての回を3人の打者で料理してしまった野村。

 それは、芸術的なピッチングだった。投じた球数91。被安打4。無四球。対戦した打者27人。つまりランナーを出しながらもすべての回を3人で料理したのだ。こんなピッチングがどうしたらできるのか。そこには野村が目指す理想のスタイルが見事に詰まっていた。

 圧巻だったのは7回。先頭打者に二塁打を許し、送りバントで三塁に進まれる。1点を追う愛知学院は、初球にスクイズを狙うがファールになる。野村は、もう一度やってくると確信した。2球目は、あえて外に大きく外すウエストボール。相手は、2球続けて外してこないだろうと思うはず。スクイズをやるなら次のボールだ。3球目のサインはスライダー。足を上げて投球動作に入ると、案の定バッターがバントの構えをした。このとき野村は、スライダーを咄嗟にワンバウンドさせて投げたのだ。ワンバウンドのボールをバントするのは、打者にとって至難の技だ。バットは空を切り3塁ランナーは本塁でタッチアウト。これぞ究極のスクイズ封じだった。

甲子園で、逆転満塁本塁打を浴びた苦い経験を忘れない。

 野村には苦い思い出がある。'07年、夏の甲子園。広陵高のエースとして登板、佐賀北高との決勝戦で1安打と抑えながらも8回に逆転満塁本塁打を浴びて準優勝に終わった。悔しさの中で自身の力のなさを痛感したと言う。雪辱を誓った甲子園から4年。野村はまったく隙のない投手に変貌を遂げていた。

「身長177cm、体重76kgの大学生なんてどこにでもいます。そんな選手がただ投げるだけでは通用しない。キレとコントロールはもちろん、球種、フィールディング、牽制、駆け引き、状況判断、あらゆることを磨いて勝てる投手を目指してきました」。神宮大会の決勝戦は、その集大成とも言える内容だった。

「人間としての成長が、野球の成長につながると信じています」

「人間としての成長が、技術の成長、野球の成長につながると信じています。それが明治大学伝統の『人間力』ではないかと思うんです。野球には人の性格が出ます。だから普段からきちんとした生活を送っていなければ、大事なところでそれが出る。勝っても負けても生活のリズム、ルーティーンは変えない。自分にできることをしっかりと積み上げていく。その力を大学の恵まれた環境の中で培うことができました」

 野村に「どんなプロ野球選手を目指すのか」と聞いた。答えて曰く「まずは立派な大人になりたいです」。実に真摯な、いやおそろしく貪欲な若者が時代の鐘を打ち鳴らす。

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