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伝説的プレイヤーが
告白した壮絶なる過去。
~NBAの象徴ウェストの自伝を読む~ 

text by

宮地陽子

宮地陽子Yoko Miyaji

PROFILE

photograph bySports Illustrated/Getty Images

posted2011/10/31 06:00

今年2月にはレイカーズの本拠地ステイプルズ・センターにウェストの銅像が設置された

今年2月にはレイカーズの本拠地ステイプルズ・センターにウェストの銅像が設置された

 NBAで“ロゴ”と言えば、ジェリー・ウェストのこと。NBAロゴの選手シルエットは、ウェストがドリブルしている写真を元にデザインされたのだ。「完璧だと思った」と当時のデザイナーは語っている。

 実際、ウェストはすべてにつけ完璧だった。端整な顔立ちにスラリとした容姿。オールラウンドな能力に加え、勝負強さも兼ね備えていた。'60年代から'70年代前半にかけてロサンゼルス・レイカーズで活躍し、NBAファイナルに9回進出、'72年には優勝も果たしている。引退後はGMとしても手腕を発揮しており、ロゴができてから40年以上たった今でも、リーグの象徴としてふさわしい人物だと誰もが納得する人選だ。

トラウマからうつ病まで赤裸々につづった自伝本。

 そんな華々しい経歴の一方で、ウェストはいつも苦しんでいた。どれだけ成功しても満足せず、敗北の痛みに苦しんでいた。完璧主義者ゆえと思われていたのだが、現実はもっと残酷だった。発売になったばかりの自伝本でウェストは、子供の頃に父親から虐待を受けていた事実を告白し、そのトラウマから自尊心に欠け、人から拒絶されることや失敗することに敏感だったこと、うつ病に苦しんできたことを赤裸々に綴っている。

 家に居場所がなかったウェストにとって、バスケットボールは子供の頃の逃げ場だった。「バスケットボールに対する情熱で自分は守られていた」とも言う。一方、認められたいと思いながら、人々から賞賛されるたびに落ち着かない思いもしていた。試合に負けるたびに苦しみ、特にNBAファイナルでライバルのボストン・セルティックスに負けると毎回、自分に何が足りなかったのかを自問自答したという。そして、その裏にあった本当の疑問は「父の愛を得るためにもっと何ができたのか」という問いだったのではないかと、自伝の最後を締めている。

73歳になった今、壮絶な過去を告白した理由。

 読むだけで痛々しい内容だが、ウェストは「自分は被害者ではない」と強調する。これまで隠していたことを、73歳になった今告白したのは、同じように暴力の被害者となっている子供や女性のためであり、この本を読むことで少しでも救いを感じる人がいれば、と語る。その勇気を称えるとともに、真実を語ったことで、ウェスト自身にも心の平安が訪れることを願ってやまない。

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