スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
「ポスト・シャビ」のバルサ未来形。
圧倒的破壊力の3-4-3をひも解く。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byAFLO
posted2011/09/09 10:30
ビジャレアル戦、ベンチスタートのシャビ(中央)。自分自身がいない「バルサ」をどう見ていたのか
ポルトとのUEFAスーパーカップから中2日の強行日程で迎えた29日のリーガ開幕戦。バルセロナは3-4-3の超攻撃的布陣を採用し、強豪ビジャレアルに5-0と圧勝した。
グアルディオラが3-4-3を用いたのはこれが初めてのことではない。だが、そのほとんどはスコアが開いたゲーム終盤になって実験的に用いたもので、試合開始から採用した際には思うような効果が得られず、すぐに従来の4-3-3に戻していた。よって90分間通してこのシステムを貫き、かつここまで機能したのはこれが初めてのことだった。
そして何より驚かされたのは、これまで唯一替えがきかない存在だった司令塔のシャビが先発メンバーの中にいなかったことだ。
イニエスタやメッシがいなくてもバルサのサッカーは成り立つが、シャビがいなければ別のチームになってしまう。バルサの命であるボールポゼッションの中心として、チーム全体のパス回しにリズムを与える心臓の役割を果たすシャビの重要性は、これまで何度もそう語られてきた。実際、これまで彼が欠場した試合では必ずボール支配率が低下し、チームはゲームをコントロールするのに苦労している。
だがこの試合でバルサは、そのシャビを抜きにして73%という極めて高いボール支配率を記録した。ベンチスタートしたシャビが登場したのは57分、既にスコアが4-0と開いた後のことだった。
シャビ不在でもボールを支配できたのは3-4-3のメリット。
シャビ不在のバルサはなぜ、これだけ高いボール支配率を保ちながらゲームをコントロールすることができたのか。この試合に限って言えば、最大の要因は3-4-3の布陣がもたらしたメリットにあったように思える。
第一に、DFを削ってMFを1人増やした3-4-3は4-3-3より前に重心を置く布陣のため、プレス時のボールの奪いどころが今まで以上に高くなった。
4-3-3のバルサはたいていの場合、3トップが1列目、攻撃的MF2人が2列目、両SBとピボーテが3列目、CB2人が最後尾に位置する2-3-2-3の並び、もしくは両SBが2列目に上がった2-1-4-3に近い並びでプレスをかける。だがビジャレアル戦では相手のセンターバックがボールを持つたびにトップ下のセスクが前線に飛び出し、ほぼ3-3-4の形となって相手のDFラインにプレッシャーをかけていた。
ビジャレアルは中盤と前線に技術の高い選手が揃う一方、最終ラインは足元の技術に難がある選手が多い。そこを突いたこの「4トッププレス」で最終ラインと中盤のつながりを絶ったバルサは、結果として最大の脅威だった2トップのロッシとニウマールがほとんどボールに触れられない状況を90分間保ち続けることに成功している。