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W杯を笑顔で勝ち取った佐々木監督。
“なでしこマネジメント”5つの法則。
text by
了戒美子Yoshiko Ryokai
photograph byREUTERS/AFLO
posted2011/07/31 08:00
練習中、ふざけて走りまわる大野忍選手を追いかける佐々木則夫監督。多くの報道陣が押し寄せても、その明るいチームの雰囲気は変わらなかった
なでしこたちの練習を見ていて、印象に残るのは楽しそうな笑顔と笑い声だ。
現地ドイツで見るテレビのニュースでも、使われている映像は楽しそうに駆け回るシーンばかりだったから、よほど印象的なのだろう。プレッシャーに押しつぶされそうになることもあり得る大舞台で楽しく練習出来る、自由でのびのびとした空気は今回のチームの特徴だったのではないか。
佐々木則夫監督はいかにして、そのような空気感を作り出したのか?
大会中の指導方針から、その術を探ってみることとしたい。もしかしたら、我々の社会生活に活かすことのできるヒントが隠されているかもしれない。
なでしこマネジメント ~その1~ 会わない日をつくる。
試合翌日、佐々木は主力組の練習には顔を出さないのだそうだ。
「べつに毎日オレの顔見たくもないだろ?」
と言うのがその理由のひとつ。
代表の合宿中は、基本的に団体行動でプライベートなどほぼない。例えば今大会メンバーは、6月14日に集合して以来7月18日に解散するまでずっと集団行動を余儀なくされていた。ひとつの宿舎で寝泊まりし、食事も一緒。練習には全員が一台の貸し切りバスに揺られて向かう。息が詰まることだってあるだろう。だからこそ、会わない日は重要なのだ。
「監督はオンとオフのはっきりしている人ですね。試合翌日のトップの練習には顔を出さないって言われてみて気づいたんですけど、確かに毎日顔見る必要ないですね(笑)。でも、そういう気遣いはありがたいですね」(岩清水梓)
と選手からも好評だ。
確かに、何事においても長く良好な関係をキープするためには適度な息抜きは必要である。
~その2~ 話はじっくり聞く/きちんと伝える。
敗れたイングランド戦後、澤穂希が「練習量が多いのでは? みんな疲労がたまって試合では動けなかった」と相談をもちかけた。
佐々木は話を聞いた上で練習量が多くなっている理由を説明し、さらにプレーの例を挙げ「それを言い訳にするな」と話したのだそうだ。
練習量の相談などされたら、不愉快に思う指導者は少なくないだろう。佐々木は頭ごなしに否定するのではなく、一旦受け入れ、その上で意見を伝えている。相互に意見を交わしてこそのコミュニケーションを大舞台のさなかにも取っている。
そして、伝えなくてはいけないことはなんとしても伝える。
決勝でPK戦に入る前の円陣でのこと。佐々木は「自分はリラックスしている。このPK戦をもうけものだと思っている」と選手にどうしても伝えたかった。
「なにかギャグのひとつでも言いたかったんだけどね。どうしてもでてこなかった。だから笑顔で伝えるしかなかったから、笑顔をふるまったんだよ」
意思伝達の手段はなにも言葉だけではないのだ。