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<非エリートの思考法> 佐藤琢磨 「妥協なし。100%を貫く才能」 

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photograph byHiroaki Matsumoto

posted2011/08/02 06:01

<非エリートの思考法> 佐藤琢磨 「妥協なし。100%を貫く才能」<Number Web> photograph by Hiroaki Matsumoto
19歳からの挑戦。現代のレーサーでは異例に遅いレースデビューだったが、
彼はわずか6年でF1にまで辿り着いた。経験がものをいうレースの世界で、
キャリア不足をものともせず、一気に最高峰に到達できた秘訣とは。

 団地の曲がり角を、自転車で激しく攻める少年がいた。

「昨日より速く!」

 全力でペダルを回し、より深く自転車を傾ける。友達が誰も真似できないスピード。自分だけが辿り着ける世界。幼い頃から、佐藤琢磨は限界域で乗り物を走らせるのが好きだった。そして、好きな物には100%の力を注いだ。失敗は怖くなかった。しょっちゅうひっくり返りながらも、彼は飽きることなく、団地の曲がり角を旋回し続けた。

 F1ドライバーになるには、幼少の頃からの英才教育が常識だ。小林可夢偉は9歳から、セバスチャン・ベッテルは8歳から、フェルナンド・アロンソにいたっては3歳から、エンジン付きのカートに乗り始めている。佐藤が自転車で団地の角を疾走していたのと同じ年頃で、彼らはすでに、4輪レーシングマシンの原点での走行を開始していた。

 佐藤がレーシングカートに乗り始めたのは、19歳の時だった。F1ドライバーをめざす若者なら、10年以上のキャリアがあってもおかしくない年齢で、まっさらの新人としてモータースポーツの世界に足を踏み入れたのだ。あまりに遅く、あまりに不利なタイミングでのスタート。しかしそれは、佐藤のモータースポーツへの思いが極めて純粋で本気だったことの表れだった。

「やる」と決めたこと以外は、極端にズボラでだらしない。

 10歳で鈴鹿サーキットに連れて行ってもらい、F1を観戦した。乗り物好きの佐藤は身震いするほど感動し、F1ドライバーを夢見た。しかし実際に競技者になるには、モータースポーツの世界はあまりにも遠かった。

インディ2年目の今季は、9戦消化時点でランキング14位。着実な進歩を見せている

「自分と同い年ぐらいの子供たちがレーシングカートを走らせていることは知っていました。正直、うらやましかった。でも、カートは全然身近じゃなかったんです。経済的にも無理だと思っていたし、接点もまったくなかった。そんな風に、よく分からないままレーシングカートを始めても、きっと中途半端になる。それならやらない方がましだった」

 好きなこと、自分で「やる」と決めたことには、全力で取り組む。そうでないことには「極端にズボラでだらしない」。100か、ゼロか。佐藤は物事を明確に区分けする。勝負事なら当然のように「100」、すなわち勝利を狙う。勝負するからには負けたくない。だから勝てるフィールドを選ぶ。勝てる見込みがないものに、あえて飛び込む必要はない。勝算どころか、きっかけすらないモータースポーツは、佐藤にとって「ゼロ」だった。

【次ページ】 大学2年の時、ふいに転機が訪れる。

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