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<ウィンブルドンで得た確信> クルム伊達公子 「貴婦人の激闘」 

text by

吉井妙子

吉井妙子Taeko Yoshii

PROFILE

photograph byShunsuke Mizukami

posted2011/07/28 06:00

<ウィンブルドンで得た確信> クルム伊達公子 「貴婦人の激闘」<Number Web> photograph by Shunsuke Mizukami
40歳の日本人が、聖地で観衆の心を掴んだ。
彼女はなぜ、芝の女王と互角に渡り合えたのか。
年輪を重ねて辿り着いたテニスとの幸福な関係。

 あとほんの少しだった。6月下旬、ウィンブルドンのセンターコートで行なわれた2回戦のクルム伊達公子(40)対ヴィーナス・ウィリアムズ(31=米国)。大会最年長の伊達は、大会5度の優勝を誇るヴィーナスを最終セットの第14ゲームまで追い詰め惜敗したものの、技対力の2時間56分の激闘は、世界中のテニスファンを熱くさせた。

 伊達を「テニスの貴婦人」と形容した英インディペンデント紙は、「あと一歩で時計の針を巻き
戻すところだった」と称えるなど、海外メディアも奮闘を賞賛した。

――2日間にわたって死闘を演じた’96年のシュテフィ・グラフ戦を髣髴させる、息をのむような闘いでした。

「負けたにもかかわらず、帰国してからも多くの人たちに声をかけていただき、嬉しかったですね。自分としても、その前のクレーコートでの試合はずっと勝てない日々が続いたので、ウィンブルドンでちょっと吹っ切れたところもあり、良かったかな。

 やっぱり相手がヴィーナスだったのでこれだけ注目されたんでしょう。彼女はパワーやスピードを現代の女子テニス界に持ち込んだ先駆者だし、5度もウィンブルドンを制しているほど芝のコートが得意。しかも精神力は並大抵じゃない。そんな現代テニスの象徴のようなヴィーナスに、世代の違う私のテニスがどこまで通用するのか。違うやり方であるにもかかわらず、互角に渡り合えたことに、周りは驚きと衝撃を受けたんだと思います」

―― 一番驚いたのはヴィーナス本人じゃないでしょうか。「彼女ほどネットに出てくる選手はいない。リスクを冒しても成功させていた。ほとんどの選手はこんなプレーはしない」と、試合後に、コメントしていました。

ヴィーナス・ウィリアムズ相手に7-6、3-6、6-8と大接戦を演じた

「もちろん、ヴィーナスも怪我で半年くらいのブランクがあって、絶好調でなかったのも私にプラスしたと思うけど、出だしの1ゲーム目をラブゲームでブレークして、初っ端に突き放せたのが大きかった。ヴィーナスの1球目のサーブをリターンできたことで、流れを自分に引き寄せることが出来たんです。そのせいか、ファーストセットの段階では、彼女が冷静さを失っているのを感じていました。

 試合前は、彼女の時速190km前後のサーブを本当に返せるのか不安があったんです。もちろん、パワーテニスに対抗するため、展開の速さとボールの深さ、そしてネットプレーを織り交ぜて攻めてみようとは考えていましたけど、サーブをリターンできなければ、絵に描いた餅になってしまう。

 そのサーブに順応できたこと、ラリーの中でも主導権を私が持っていられたこと、そして試合をコントロールしていたのがヴィーナスじゃなくて私だったことが善戦できた理由かな。相手に主導権が渡った時点で苦しくなるのは分かっていたので、出来るだけ自分の間合いでプレーできるように考えていました」

【次ページ】 「ヴィーナスの方に相当のプレッシャーがあった」

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