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補強とは、スターを集めることではない。 

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木村浩嗣

木村浩嗣Hirotsugu Kimura

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photograph byGetty Images/AFLO

posted2005/06/08 00:00

補強とは、スターを集めることではない。<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 顔ぶれだけ見ると、そうそうたるものだ。レアル・マドリーが獲得に乗り出す(した?)と噂の選手名を列挙してみる。(カッコ内は現所属先)

FW ロビーニョ(サントス)、アドリアーノ(インテル)
右MF ホアキン(ベティス)、クリスティアーノ・ロナウド(マンチェスター・ユナイテッド)
左MF レジェス(アーセナル)
トップ下 ランパード(チェルシー)、ジェラード(リバプール)、バラック(バイエルン・ミュンヘン)
守備的MF エメルソン(ユベントス)、エシエン(マルセイユ)、パブロ・ガルシア(オサスナ)
右SB セルヒオ・ラモス(セビージャ)
CB ルイゾン(ベンフィカ)
GK ブッフォン(ユベントス)

 このメンバーだけで“銀河系”がもう一つできるのは間違いない。が、景気のいい話に手放しで喜んでいる場合だろうか?噂や希望的観測だけの“新聞辞令”が相当数含まれていることは承知しているが、私が心配なのは、獲るべきポジション、選手のタイプに一貫性がまるでないことだ。

 補強の方針は、来季の戦い方に基づき決められるべきだ。2シーズン連続無冠のレアル・マドリーには、シャツが売れるからとか、スターだからとか言っている余裕はない。

 戦い方(システム+戦略・戦術)が決まれば、各ポジションの役割が決まる。本来、補強とは、その役割を果たせる能力のある個人を探すことである。つまり、最初に戦い方ありきなのだ。だが、どうもこのチームの場合その順序が逆転、最初にスターありきのような気がしてならない。スターを獲ってから、システムをいじり戦い方を変え、ポジションを用意する。ベッカム=ボランチの実験などその最たるものだろう。

 来季のレアル・マドリーの戦い方はどうなるのか?

 ルシェンブルゴはシステムを伝統の4−2−3−1から試行錯誤の末、2トップ、1ボランチ、中盤がダイヤモンド型に並ぶ4−1−3−2に変え、結果を出した。後半戦だけならリーグ最強だったのだから、このシステムを変更する理由はない。

 となると、守備的ミッドフィルダーに外国人の大物はいらない。1ボランチはグラベセンで十分機能している。彼の控えなら、スペインリーグで活躍するスペイン人選手でいい。外国人枠の心配はいらないし、適応も早く即戦力になるからだ。イト(エスパニョール)とかリバス(ヘタフェ)とかセルヒオ(デポルティーボ・ラ・コルーニャ)とか、実績のある渋い選手がいくらでもいる。

 同様なことは右ミッドフィルダーにも言える。フィーゴがほぼ放出決定で、あと1枚ほしいのはわかる。が、レギュラーはあくまでベッカムである。ワールドカップを控えるスペイン代表のホアキンが、ベンチ生活を我慢できるとは思えない。もっと小物を探すべきだ。クリスティアーノ・ロナウドなんて論外である。

 フォワードはどうやらロビーニョで決まりのようだ。となると、ロナウドがレギュラーで、残り1つをオーウェン、ロビーニョが争う。好漢オーウェン、若いロビーニョは控えに甘んじても文句は出ない、としよう。ただしアドリアーノが来ればオーウェンは出て行くだろう。

 が、この2トップの本当の問題は、その下でプレーするはずのラウールである。

 ダイヤモンド型の頂点に位置するこのポジションには、理論的には、まず守備ができる選手を置くべきだ。2トップ、1ボランチの構造的な弱点はセンターラインだからだ。そのうえ、パスが出せ、ミドルシュートが撃てるなら理想的。この点、先のリストに名が挙がっていたランパード、ジェラード、バラックはこの特徴にピッタリだが、ラウールには当てはまらない。彼の闘争心と運動量は買うが、このポジション・役割では攻守とも中途半端な結果しか残せない、だろう。

 ルシェンブルゴは、ライン間が詰まったコンパクトなチームを目指す、と何度も語っている。前線からプレスを狙うなら、やはりラウールでは心もとない。センターバックを補強するよりも、ここに守りも計算できる選手を置く方が、チーム全体の守備力は遥かにアップする。そんなことはルシェンブルゴはわかり切っているだろう。

 もしラウールがレアル・マドリーの象徴でなければ、行き場所のない彼は放出されていたのではないか。攻守のバランスを考えると、それが当然の帰結だ。逆に、ラウールを使い続けるなら、ランパードら大物を獲得するのはこれまた意味がない。

 左サイドのレジェス獲得は悪くない。ドリブル突破力があり、逆サイドのベッカムとは全然違うタイプで、攻撃の幅が広がる。ジダンの力の衰えもあり、レギュラーに近い活躍ができたはずだった、が、ソラリと契約を更新してしまった。これでレジェスが来る可能性はなくなった。

 右サイドバックの19歳セルヒオ・ラモスは、久々に出たスペインのスターである。獲るならミッチェル・サルガドからレギュラーの座を取り上げる覚悟で育てるべきだが、ルシェンブルゴにそんなリスクを犯す気はないだろう。伸び盛りのセルヒオ・ラモスにもベンチを温めるメリットはない。

 センターバックについては、誰を獲っても同じ。前述したように、センターラインを強化したいなら、トップ下にラウールを使うべきではない。

 セサルが退団し、第2キーパーの補強は必要。あくまでカシージャスの控えだから、ブッフォンの名を出すのは失礼というものだ。もっと小物を狙うべき。

 名前は挙がっていないが、私がルシェンブルゴなら左サイドバックを補強する。ジダンの力が落ちて左サイドの守備力が低下。ロベルト・カルロスの守備の負担が増えている。今の攻守バランスから言えば、ここに全盛期のロベルト・カルロスほど攻撃参加する選手は必要ない。確実に守れる選手が1人ほしいところだ。

 以上は、あくまで今季の戦い方が継続されるという前提での話だ。もし、システムも戦略・戦術もすべてご破算、一からやり直すというなら、エメルソン、ホアキン、レジェス、バラックらスターの獲得も夢ではない。

 しかし、本当に強くしたいなら、どちらのやり方が賢いかは一目瞭然だろう。

レアル・マドリー

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