これでいいのか辻本賢人!!
阪神をクビになった20歳は草食系。

田口元義 = 文 ⇒この著者の記事一覧

text by Genki Taguchi

photograph by NIKKAN SPORTS

これでいいのか辻本賢人!! 阪神をクビになった20歳は草食系。

関連アスリート・チーム:

チーム・選手名
辻本賢人
阪神タイガース

 結局、30分以上は待っただろうか。

 11月25日のこと。場所は神宮球場内の関係者通路。大勢の報道陣が彼を待ち続けていた。なかには他の参加選手の結果を気にしている記者もいたし、暇をもてあまして携帯電話をいじっているカメラマンもいた。

 今季最後となる第二次合同トライアウトで投球を終えた彼は、選手控え室に入ったきり出てこない。

 15分くらいたった頃、扉越しから声が聞こえてきた。すべては聞き取れなかったが、断片で判断すれば、多分、こんな内容。

「(取材は)メシ、食べてから」

 20歳の若者は、自分よりもはるかに年上の人間たちをやきもきさせていた。悪気はないのだろうが、やっぱりよくないと思った。なにせ、置かれている立場が以前とは明らかに違う。彼は「クビになった人」なのだ。「メシなんていつでも食えるんだから、早く出てきてくれよぉ」。これが、その場にいた大人たちの共通認識だったはずだ。

 実力が認められれば周囲はある程度の言動は許してくれるだろう。ただ、多くの人間は、ときには褒められ、またあるときは厳しい評価を下され、辛い現実に直面する。その繰り返しなのだ。

 15歳だった辻本賢人は間違いなく前者だった。そして、阪神から戦力外通告を受けた20歳の辻本賢人は、後者となった。

戦力外通告を受けた20歳。プロの思い出は「ないです」。

 トライアウトでの投球の率直な感想としては、やっぱりダメなのかな? だった。打者5人に投げ、安打は西谷尚徳(元楽天)に打たれた二塁打のみだったが、ストレートの最速はたったの134km。変化球は100kmと少し。カメラマン席で観ていた限りでは、カーブにしては変化が小さすぎるし、スライダーだとしても球速が遅すぎた。

 メシを食べ終え(?)、ようやく報道陣の前に姿を現した辻本は、具体的な投球内容について、小さな声で淡々と球種を並べる。

「真っ直ぐ、ツーシーム、カーブ。あと、スライダーも投げたかな?」

「今日のピッチングについては?」という質問に対しては、「今できることはできたと思う」と言った。それなのに、なぜ自分で投げた球種を把握できていなかったのか?

 11月11日に甲子園で行われた第一次のトライアウトのときもそうだった。戦力外を受けてからどのように過ごし、今後をどう見据えているのかが明確に伝わってこなかった。

 そして最も驚いたのが、「プロでの思い出は?」の問いに、少し間を置いてから「ないです」とポツリと答えたときだった。

 プロ野球史上最年少の15歳で指名を受けたことは思い出ではなかったのか……。

 12歳で単身渡米した辻本は、15歳になる頃には最速142kmの速球を誇る投手へと成長を遂げ、日本の球団からも注目されるようになった。そして'04年、15歳にして阪神からドラフト8巡目で指名された。「ワンダーボーイ出現」「将来のエース候補」など、獲得した阪神のみならずプロ野球全体が彼の明るい未来を想像した。

<次ページに続く>

► 【次ページ】  「5年後にはものすごいピッチャーになっている」はずが……。

筆者プロフィール

田口元義

田口元義

1977年福島県生まれ。元高校球児(3年間補欠)。ライフスタイル誌の編集を経て2003年にフリーとなる。Numberほか雑誌を中心に活動。試合やインタビューを通じてアスリートの魂(ソウル)を感じられる瞬間がたまらない。共著に「戦力外通告 プロ野球をクビになった男たち」、同「諦めない男たち」などがある。


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