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剛速球を科学する。人間は何キロの球まで打てる?
 

text by

生島淳

生島淳Jun Ikushima

PROFILE

photograph byHideki Sugiyama/Getty Images

posted2009/12/01 11:00

MLB時代のクルーンは163kmを記録したこともあるとも言われる。その剛速球ゆえに肘の怪我も多い

MLB時代のクルーンは163kmを記録したこともあるとも言われる。その剛速球ゆえに肘の怪我も多い

 野球史上、最も速いボールを投げたと公式に認められているのは1974年のノーラン・ライアン(当時エンゼルス)で、実に100.9マイル(162.4km)を記録。日本の記録では2008年にマーク・クルーン(巨人)が記録した162kmなのだが、実はこの時はホームランを打たれている。

では実際、バッターはどこまで速い球を打てるのか? 最新の科学で投打における究極の勝負を検証してみた。

人間の反応時間と剛速球のホーム到達時間を比較してみると?

 メジャーリーグの剛速球投手は時速160kmを超える球を投げるが、打者によってはこれをホームランにする。

 かつてアメリカの新聞で、「打撃はあらゆるスポーツの技術のなかで、もっともむずかしいテクニック」と紹介されたことがある。文字にしてしまうと簡単だが、野球選手は大変なことを成し遂げているらしいのだ。

 そうなると、知りたくなるのが、人間はどれくらい速い球を打てるかということ。現実的には165km以上のストレートを投げる投手は世界中探してもまだ見当たらないが、170kmや200kmのストレートを打つことは可能なのだろうか?

 それを科学的に探るために、立命館大学の塩澤成弘准教授に取材を申し込む。塩澤准教授は、人間の反応についてのデータを提示してくれた。光源を使った反応実験である。

「光源が光ったらボタンを押すという単純な反応を調べると、一流選手でさえ0.2秒かかります。そこから青と赤ふたつのランプを用意したり、選択肢が増えると反応時間は増加していきます。しかも全身運動の場合だと、単純反応に約0.1秒がプラスされます」

表

 研究結果(「非鍛錬者、運動選手の全身反応時間」<猪飼、1961>)によれば、男性の場合、非鍛錬者の全身反応時間は0.365秒。それに対して一流選手は0.324秒だった。

「即座に反応する」とはいっても、実際にはこれだけの時間が必要ということになる。

 では、投手がボールをリリースしてからホームベースに到達するまでには、どれくらいの時間がかかるのだろうか。

「ピッチャーのリリースポイントからバッターまでの到達時間を平均球速から予測すると、このようになります(右表)」

理論的には人間は170kmの速球を打てるということだが……。

 当然のことながら、球速が遅ければそれだけ反応に余裕があり、速ければすぐに反応しなければならない。メジャーリーグには時速100マイル、およそ160kmを投げられる投手もいるが、このスピードでボールが投げられると単純な計算で0.38秒で球はホームベース上に到達することになる。

 ここで先ほどの一流選手の全身反応時間と照らし合わせて考えてみると……反応時間は0.324秒だったから十分に対応できることになる。

写真MLB時代のクルーンは163kmを記録したこともあるとも言われる。その剛速球ゆえに肘の怪我も多い

「理論上は、非鍛錬者であっても0.36秒ほどで全身反応ができているわけですから、170kmくらいまでは打てるということになります。もし、球種もコースも特定されていれば、予測という要素も入りますのでもっと速い球でも打てるかもしれません。

 ただ、実際の野球の試合となると、投手を観察し、バットを振りながらボールを見極め、さらにスイングを調整するという複雑な動作を行うことになります。そうなると一流選手ならなんとか170kmくらいのボールに対応できるのでは……というレベルではないかと思いますね」

 科学的データから考えてみても、やはり現実的にはプロの打者であっても170km台の速球になると即座に反応するのは至難の業のようだ。そうなると、配球を読むなどいかにも人間的な、経験を重ねた上での作業がやはり重要になってくるということだ。

 科学の目から見ると、プロ野球の世界では0コンマ数秒というわずかな時間の中で様々な戦いが繰り広げられているというのがよく分かった。170kmを打つという理論は納得できたので、あとは170kmの投手の出現を待つだけということ?

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